「墨かけ女子事件」は中国民主化運動に発展するか?――広がる「習近平の写真に墨汁」
たとえば「これ」をご覧いただくと、それが真実であったことがわかる。
大陸の民主活動家を取材
これら一連の現象が中国の民主化運動につながるか否か、中国大陸にいる民主活動家を取材して聞いてみた。彼の回答は絶望的だった。
「考えてみてください。中国には200万人の軍隊がおり、数百万人の警察がいます。彼らは自国の人民を鎮圧するために存在しているのです。中国人民は少なくともあと20年間は不民主の中で生きていくしかないのです。中国人は考えることさえコントロールされています。微信(WeChat)も微博(ウェイボー)も全て監視されているのですから」
そして続けた。
「しかも中国で何が起きているのかを知るために、特殊な方法を使って海外から情報を入手するしかないのです。人民が絶対に横につながらないように、政府は最大の工夫をしているのです。こんな環境下で民主化運動など、夢のまた夢。われわれに前途はない!」
絶対に民主化運動には発展し得ないと、怒りをぶつけた。
中国共産党の元老幹部を取材
すでに齢(よわい)90歳を越える、中国共産党の元老幹部を取材した。
以下、Qは筆者、Aは元老幹部だ。
Q:この「墨かけ女子事件」は中国の民主化運動に発展すると思うか?
A:思わない。六四(天安門)事件のように怒りの規模が大きくないから。
Q:しかし人民の怒りは潜在していることは確かだと思うが。
A:それは確かだ。しかし民主化を達成するには、まず貧富の格差を解決し、教育の普及が不可欠だ。
Q:教育の普及?
A:そうだ。民主化というのは知的活動であって、人民の平均的な知的水準が高まれば、「民主」という、「金儲けではない理念」を求めるようになる。
Q:あなたは民主化を望んでいるか?
A:望んでいる。共産党政権が民主化すればいいが、それは望み薄だろう。党はまだまだ改革していかなければならないが、民主は脆弱だ。だから批判を怖がり、監視を強化している。中国に民主が訪れるには、まだ長――い時間がかかる。
董瑶けいの父親も華涌も拘束された
元老幹部の言った通り、7月13日夜、董瑶けいの父親・董建彪と華涌が公安に拘束されたことが分かった。公安が家に入ってくる様を、華涌が生中継しながらツイッターで発信している。
これが中国の現実だ。
国際調査機関でなくとも、全世界の人々が一人でも多く、この現実を拡散してほしいと強く望む。その力を習近平は無視することはできないだろう。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。