最新記事

サプリメント

認知症の改善効果をうたう健康サプリにご用心

2018年7月3日(火)15時20分
リック・シュミット (非営利調査報道サイト「フェアウォーニング」記者)

医薬品の安価な代用品としても重宝されるサプリは、20年で種類が約20倍に増えた BROOKS KRAFT LLC CORBIS/GETTY IMAGES

<記憶力や知力の衰えは誰だって怖い――サプリメントはその不安につけ込みかつてなく大繁栄しているが、規制と監視が緩く私たちの健康を害する可能性も>

うちの家系には認知症患者がいる。もしかしたら私も......。そう不安にかられたビー・ペナリームズ(57)は数年前、記憶力向上と脳の働きの改善をうたうサプリメントを飲み始めた。安全で効果があると宣伝されていたが、彼女には別の作用が表れた。

「いつもの私は陽気な人間。それなのに気分が落ち込み、ひどく悲しい感情に襲われた」と、テキサス州在住で元高校教師のペナリームズは言う。「少しのことで腹が立った」

サプリメントは医薬品と違って規制が緩く、安価なために脳の機能低下やアルツハイマー病を心配する中高年層に人気が高い。認知症の治療法が確立されていない今は、こうした効能をうたったサプリを売り込む絶好のチャンス。業界は勢いづいている。

アメリカ市場に出回るサプリの種類は過去20年で約20倍になった。成長の原動力は、「ぼけ」を恐れる人々に向けた商品。社会的弱者の不安につけ込むマーケティングがサプリ消費をあおっている構図だ。

16年9月には米食品医薬品局(FDA)が、ペナリームズの飲んでいたサプリ(主成分はビンポセチン)の販売中止を勧告した。サプリの成分は全て天然由来でなければならないが、ビンポセチンは人工的な合成物だからだ。しかしビンポセチンを含むサプリは20年近く前から売られており、FDAが知らなかったでは済まされない。業者がたっぷり儲けを上げた今になって禁止を言いだすのはなぜか?

サプリのメーカーや販売業者は、法によって「認知症に効く」といった治療効果表示を禁じられている。それでも陳列方法や宣伝文句から、言いたいことが伝わってくるのは確かだ。

グリーン・バレー・ナチュラル・ソリューションズ社(米バージニア州)は、『アルツハイマー病からの覚醒』と題したビデオシリーズを宣伝している。認知症予防のハウツーなるものが満載の内容で、これと一緒に同社の誇る「進化した」サプリも買わせようという魂胆だ。

「ニューロ・ナチュラル・リコール」を販売するエクステンド・ライフ社(ニュージーランド)のウェブサイトには、アルツハイマー病や認知症の治療に関する記事があり、同社のサプリの「強力な」成分が役に立つと記されていた(同社に問い合わせると、表現を修正するという返事が来た)。

認知症に確実な治療法はない。あるかのように思わせるのは消費者にとって有害な行為だと専門家は言う。「誰だって特効薬を探しているが......科学はそこまで進歩していない」と、アルツハイマー病協会の家族・情報サービス担当者ルース・ドリューは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

仏当局、ディープシークに質問へ プライバシー保護巡

ビジネス

ECB総裁、チェコ中銀の「外貨準備にビットコイン」

ビジネス

米マスターカード、第4四半期利益が予想上回る 年末

ワールド

米首都近郊の旅客機と軍ヘリの空中衝突、空域運用の課
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 8
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 3
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 4
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 5
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 10
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中