最新記事

アメリカ

トランプ外交はミードの4類型に収まりきらない──アメリカン・ナショナリズムの反撃(1)

2018年6月14日(木)18時45分
中山俊宏(慶應義塾大学総合政策学部教授)※アステイオン88より転載

ミードの四類型の限界

トランプ大統領が、「国家安全保障戦略(National Security Strategy)」(二〇一七年一二月)で提唱した「アメリカ・ファースト外交」は、どうもミードの四類型には収まりきらない。ミード自身は、トランプ外交をジャクソニアンの系譜でとらえることができると主張しているものの、そもそもミード自身、当初はジャクソニアンの典型としてジョン・マケイン上院議員をあげていることからもうかがえるように、かなりジャクソニアンの意味合いをずらしながら、トランプ外交に適用している(いうまでもなくマケインはトランプ批判の急先鋒である)(4)。ミードは、軍人としての経歴を強調したケネディ大統領やジョージ・H ・W ・ブッシュ大統領らも、ジャクソニアン的な系譜の中で説明できるとしている。ジャクソニアンは、軍の文化に固有の名誉、勇気、誇り、そして自己犠牲に依拠し、トランプのアメリカ・ファースト外交とはかなり位相を異にする。たしかにトランプ政権の誕¥生とともに、大統領の執務室に新たにアンドリュー・ジャクソン大統領の肖像画が飾られたことがひろく伝えられた(これは解任されたスティーブン・バノン首席戦略官の発案だった)。しかし、トランプ大統領のアメリカ・ファースト外交がジャクソニアン的な装いを纏っているからといって、それがジャクソニアンだとは限らないだろう。むしろ、トランプ政権の軍出身の閣僚・高官たちは、アメリカ外交をトランプの影響から救い出そうとしているかのようにも見える。

しかし、それをいうならば、実は二〇一六年大統領選挙民主党予備選で、旋風を巻き起こしたバーニー・サンダース上院議員も、ミードの四類型には収まりきらない。サンダースは予備選で敗退はしたものの、予備選終盤までクリントン候補を脅かし続け、そしていまなお民主党左派を中心に強い影響力を及ぼし続けている。もはやアメリカを存在論的に「良き存在」とはとらえておらず、アメリカを告発するサンダースを、「良きアメリカ」を前提とするジェファーソン的な孤立主義の型に押し込めることは無理がある。

となると、ミードの『特別な摂理』が刊行されて、およそ二〇年弱が過ぎようとしているが、その間に、アメリカ外交の位相がかなりずれた可能性を示唆している。トランプ外交、そしてサンダースが志向した世界との関わり方は、もはやミードの類型ではとらえられないということなのか。本稿の目的は、新たな類型を模索することではないが、トランプ外交については、ミード自身がもはや消え去った外交潮流としてわずかに言及しているに過ぎないデイヴィソニアン(Davisonian)的な潮流がむしろアメリカ・ファースト外交と合致しているようにもみえる(5)。デイヴィソニアンは南部連合の大統領だったジェファーソン・デイヴィスに因んでいる。これは、なにもトランプ大統領が奴隷制を支持したであろうということではないが、南部に北部の産業文化が入り込んでくるのに抵抗し、旧体制にしがみつこうとしたデイヴィスの有り様は、グローバリゼーションに抵抗するトランプ大統領のアメリカ・ファーストとも重なる(6)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4

ビジネス

ECB、12月にも利下げ余地 段階的な緩和必要=キ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中