最新記事

中国

「北の急変は中国の影響」なのか?──トランプ発言を検証する(後編)

2018年5月21日(月)16時00分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

中国は金正恩を信じているか?

Q:なるほどね......、それは確かに言えますね。では、最後に一つ。答えにくいでしょうが、ずばり、中国は金正恩を信じていますか?

A:うーん、それはあまりに答えにくい質問だ。しかし聞きたい気持ちは分かる。うーん、困ったなぁ......。では、こうしよう。あくまでも私個人の意見として回答することにする。少なくとも私は、実はまだ金正恩を信じてはいない。いつ裏切られるか、まだ分からないからだ。現に、習近平と蜜月を演じて見せた後に、板門店宣言で「中国外し」をしたのだから、まだ何をするか慎重に見極める必要がある。ただこれだけははっきりと明言することができるが、中国は米朝首脳会談だけは実現してほしいと願っている。もし実現しなかったら、これまでよりも更に激しい米朝対立が生まれるはずで、それは軍事行動を招きかねない。それだけは避けたいというのが中国の本音だ。軍事衝突まで行かなかったとしても、また国連で制裁強化に中国も加わらなければならないのは、やっかいだ。改革開放が遠のいてしまう。北朝鮮の社会主義体制が崩壊するのは何としても避けてほしいと思っている。だから平和路線を望んでいる。

上が元中国政府高官への取材結果だ。

結論

19日には劉鶴一行の対米交渉において、中国側が対米輸入を大幅に拡大させることで合意したと米中が共同声明を出した。CCTVは「中米は貿易戦争をしないことで一致した」と劉鶴副総理の言葉を発信。この山場を乗り越えられるか否かが、中国にとっての最大の関心事であったことが窺える。

前編の考察と後編の取材により、北朝鮮が5月16日に、米朝首脳会談を開催するか否かに関して考え直した方がいいという趣旨の意思表明をしたことは、5月7日と8日の「習近平・金正恩」大連会談とは無関係であることが結論付けられる。トランプ大統領が大連会談を指して、「中国の習主席が影響を及ぼしている可能性がある」と発言したのは、妥当ではないと判断せざるを得ない。

但し、5月9日の中国共産党系メディア「環球時報」の社説「習近平・金正恩会談は半島の平和に強烈な推進力を与えた」を見ると、明らかに金正恩の大連訪問によって、「中国は北朝鮮の大きな後ろ盾である」という自信をつけたことが、一方では窺える。したがって金正恩の電撃再訪がトランプに何らかの圧力を掛ける結果になったことは否めないだろう。

それでも習近平が金正恩をそそのかしたことにはつながらないし、むしろ劉鶴がキッシンジャーと会談したことの方が米中貿易摩擦には功を奏したのではないかと判断する。


endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

首都圏マンション、11月発売戸数は18.7%減 価

ワールド

韓国年金基金と中銀、スワップ枠を拡大 ウォンの下落

ビジネス

独VWと労組、工場閉鎖と賃下げ巡る交渉継続=関係筋

ワールド

中国、米がサイバー攻撃で「企業秘密窃盗」 ハイテク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 2
    遠距離から超速で標的に到達、ウクライナの新型「ヘルミサイル」ドローンの量産加速
  • 3
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「TOS-1」をウクライナ軍が破壊する劇的瞬間をカメラが捉えた
  • 4
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 5
    「制御不能」な災、黒煙に覆われた空...ロシア石油施…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 8
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 9
    電池交換も充電も不要に? ダイヤモンドが拓く「数千…
  • 10
    アサドは国民から強奪したカネ2億5000万ドルをロシア…
  • 1
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式多連装ロケットシステム「BM-21グラート」をHIMARSで撃破の瞬間
  • 2
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いするかで「健康改善できる可能性」の研究
  • 3
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達した江戸の吉原・京の島原と並ぶ歓楽街はどこにあった?
  • 4
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 5
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    電池交換も充電も不要に? ダイヤモンドが拓く「数千…
  • 8
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 9
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 10
    【クイズ】アメリカにとって最大の貿易相手はどこの…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 8
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 9
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中