レバノン、ハリリ首相の「拘束」めぐる中東の混沌
ハリリの辞任表明でレバノンでは治安悪化が懸念されている。08年5月に政治危機の最中でヒズボラと未来運動の武力衝突が起きたように、シーア派とスンニ派の対立が一気に火を噴きかねない。ナスララとアウンは国民に冷静になるよう呼び掛け、サウジアラビアにはハリリの即刻解放を求めている。
未来運動もハリリの帰国を求めているが、サウジアラビアをあからさまに非難することは避けている。
「ハリリ党首の帰国に関する情報は一切ないが、すぐにも帰国すると期待している」と、未来運動のサミル・アルジスル議員は15日にレバノンのテレビ局に語った。ハリリの「代わりが務まる人間はおらず」、帰国できるかどうかは「重大問題」だとも述べた。
タイミングも微妙だ。ハリリの辞任表明は、ドナルド・トランプ米大統領の上級顧問で娘婿のジャレッド・クシュナーがひそかにサウジアラビアを訪れてから1週間後、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が汚職一掃に乗り出し、王子や閣僚らの一斉検挙を始める数時間前に発表された。
衝撃が広がるなか、サウジアラビアはイランとヒズボラを非難、ハリリ暗殺計画はサウジアラビアに対する宣戦布告だと決め付けた。だがレバノン軍によると、暗殺が企てられたことを示す証拠は一切ないという。
ナスララは、レバノンに宣戦布告したのはサウジアラビアのほうだと応酬。イランのハサン・ロウハニ大統領は、サウジアラビアはイスラエルにレバノン空爆を「懇願している」と非難したと、イランの国営放送は伝えた。イスラエルは、仇敵ヒズボラの拠点をたたくため85~00年、さらに06年にもレバノンに侵攻。次回の侵攻はこれまでの規模では収まらないと、レバノンにたびたび警告している。
ヒズボラと対立しサウジを支持するハリリは、アメリカの自然な同盟相手となり、レバノンのシーア派イスラム指導者マーン・アル・アサドは5月、何かあればアメリカはハリリのために立ち上がるだろうと本誌に語っていた。
ドナルド・トランプ米大統領は7月、ハリリとレバノンはISIS(自称イスラム国)やアルカイダやヒズボラに対する戦いの最前線にいると言った。実際は、ヒズボラはレバノン政権と議会に一定の勢力をもち、ISISやアルカイダとも積極的に戦ってきた。ハリリは、レバノン軍とヒズボラは関係ないと言ってきたが、シリアとの国境地帯では、ヒズボラやシリア軍と肩を並べてイスラム過激派と戦ってきた。
米国務省は11日、ハリリを「アメリカの強力なパートナー」と呼び、レバノン内外の関係者すべてがレバノンの「領土と独立」を尊重するよう求めた。
【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
ご登録(無料)はこちらから=>>