最新記事

中東

レバノン、ハリリ首相の「拘束」めぐる中東の混沌

2017年11月16日(木)19時30分
トム・オコナー

ハリリの辞任表明でレバノンでは治安悪化が懸念されている。08年5月に政治危機の最中でヒズボラと未来運動の武力衝突が起きたように、シーア派とスンニ派の対立が一気に火を噴きかねない。ナスララとアウンは国民に冷静になるよう呼び掛け、サウジアラビアにはハリリの即刻解放を求めている。

未来運動もハリリの帰国を求めているが、サウジアラビアをあからさまに非難することは避けている。

「ハリリ党首の帰国に関する情報は一切ないが、すぐにも帰国すると期待している」と、未来運動のサミル・アルジスル議員は15日にレバノンのテレビ局に語った。ハリリの「代わりが務まる人間はおらず」、帰国できるかどうかは「重大問題」だとも述べた。

タイミングも微妙だ。ハリリの辞任表明は、ドナルド・トランプ米大統領の上級顧問で娘婿のジャレッド・クシュナーがひそかにサウジアラビアを訪れてから1週間後、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が汚職一掃に乗り出し、王子や閣僚らの一斉検挙を始める数時間前に発表された。

衝撃が広がるなか、サウジアラビアはイランとヒズボラを非難、ハリリ暗殺計画はサウジアラビアに対する宣戦布告だと決め付けた。だがレバノン軍によると、暗殺が企てられたことを示す証拠は一切ないという。

ナスララは、レバノンに宣戦布告したのはサウジアラビアのほうだと応酬。イランのハサン・ロウハニ大統領は、サウジアラビアはイスラエルにレバノン空爆を「懇願している」と非難したと、イランの国営放送は伝えた。イスラエルは、仇敵ヒズボラの拠点をたたくため85~00年、さらに06年にもレバノンに侵攻。次回の侵攻はこれまでの規模では収まらないと、レバノンにたびたび警告している。

ヒズボラと対立しサウジを支持するハリリは、アメリカの自然な同盟相手となり、レバノンのシーア派イスラム指導者マーン・アル・アサドは5月、何かあればアメリカはハリリのために立ち上がるだろうと本誌に語っていた。

ドナルド・トランプ米大統領は7月、ハリリとレバノンはISIS(自称イスラム国)やアルカイダやヒズボラに対する戦いの最前線にいると言った。実際は、ヒズボラはレバノン政権と議会に一定の勢力をもち、ISISやアルカイダとも積極的に戦ってきた。ハリリは、レバノン軍とヒズボラは関係ないと言ってきたが、シリアとの国境地帯では、ヒズボラやシリア軍と肩を並べてイスラム過激派と戦ってきた。

米国務省は11日、ハリリを「アメリカの強力なパートナー」と呼び、レバノン内外の関係者すべてがレバノンの「領土と独立」を尊重するよう求めた。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
ご登録(無料)はこちらから=>>


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル1年超ぶり高値、ビットコイン10

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 取引禁止

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P1週間ぶり高値 エ

ワールド

米中国防相会談、米の責任で実現せず 台湾政策が要因
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中