最新記事

健康

早過ぎるリタイアはリスクがいっぱい

2017年11月10日(金)17時10分
クリス・ウェラー

孤独な退職者はリスクだらけ

さらに気掛かりなのがアルツハイマー病の増加だ。ITの普及で人と直接話す機会が減っている状況も相まって、脳に深刻なトラブルが生じている。

NPOのアルツハイマー病インターナショナルは13年、世界全体の認知症発症率が2030年には2倍に、50年には3倍になると予測した。ミレニアル世代の認知症リスクは史上最悪になるわけだ。現在の医学ではアルツハイマー病を食い止める手だてはない。

他人とのつながりが減っていることも問題を悪化させる。現代産業の特徴の1つはリモート・テクノロジーへの依存だ。モニター越しにいつでも誰とでも交流できることで、ビジネスの効率は大幅にアップする。その半面、自宅で仕事をするようになると1日8時間の他人と接する機会が失われ、健康面にしわ寄せが来る。「人との交流が失われる分、非常に大切な何かも失う」と、高齢者専門の精神科医ゲーリー・ケネディは指摘する。

今の若い世代は単発の非正規雇用が多く、職場への忠誠心も人間関係も希薄になっている。そうした働き方でも当座の生活には困らないかもしれないが、老後の精神的健康を保つために必要な情緒の安定は得られない。

強固な社会的絆を持たない人間の脳は、深い闇に落ちる恐れがある。15年にオックスフォード大学出版局の学術誌「労働、高齢化、退職」に発表された研究は、52~75歳の労働者1200人を対象に調査を実施。愛する人間がそばにいない人や健康状態が悪化し始めている人は、活動的な人に比べてドラッグやアルコールに溺れるリスクがはるかに大きかった。

「健康上の理由で定年後に有意義な活動への参加が制限される人は特に、労働力から外れると社会から疎外され、孤立し、退屈する羽目になる」と、研究論文の執筆者ピーター・バンベルガーは書いている。

リタイアしてからしばらくは自由な時間がうれしいかもしれない。だがそのうち、1日中のんびり過ごすことに嫌気が差し、まるで終身刑に服している気分になってくる。孤独な退職者は特にそうだ。

高齢者が健康に暮らす方法について、スタンフォード大学のフリースはあれこれ指示し過ぎることを避けている。「誰にでも当てはまる公式を探す人々もいるが、私は懐疑的だ」

それでも、気を付けるべき基本的なポイントはいくつかある。普段からストレッチなどで体を動かすこと、そして脳を刺激すること。他人と一緒に作業するのが理想的だ。

今のところ若い世代は、こうした基本を身に付けていないようだ。それでも、何を優先すべきかを見失わない限り悪い流れを変えることは可能だと、フリースは言う。「長生きしたければ、とにかく活動的に過ごすことだ」

<本誌2017年11月7日号特集「一生働く時代」から転載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏 、 ホルムズ海峡に多くの国が軍艦派遣と

ビジネス

イラン情勢注視続く、FRB金利見通しも焦点=今週の

ワールド

イスラエル、レバノンと数日内に協議へ ヒズボラと戦

ワールド

北朝鮮の金総書記、多連装ロケット砲の発射訓練視察=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目のやり場に困る」衣装...「これはオシャレなの?」
  • 3
    「筋肉はモッツァレラと同じ」...なぜウォーミングアップは「2セット」でいいのか?
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 6
    幼い子供たちの「おぞましい変化」を克明に記録...「…
  • 7
    ぜんぜん身体を隠せてない! 米セレブ、「細いロープ…
  • 8
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 9
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革…
  • 10
    【銘柄】「日本マクドナルド」の株価が上場来高値...…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 9
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中