最新記事

国際政治

トランプ ─ 北朝鮮時代に必読、5分でわかる国際関係論

2017年8月21日(月)19時30分
スティーブン・ウォルト(ハーバード大学ケネディ行政大学院教授=国際関係論)

3)比較優位(または「貿易利益」)

比較優位の原則は、自由貿易体制の根本理論だ。国家は比較優位がある財の生産に特化し、その財を、別の財に比較優位がある他国と交換する方が、すべての国がより大きな利益を得られる、という理論。たとえ1つの国があらゆる財の生産で比較優位にある場合(即ちすべての財で絶対優位にある場合)でも、その国の中で最大の比較優位をもつ財を生産した方が、この国の利益はさらに大きくなる。

この理論は今でこそ反論の余地がないが、広く許容されるまでに2~3世紀かかった。重商主義を(部分的に)否定し、より開かれた貿易を受容したことが、現在のグローバル化の根幹であり、今日の世界が2世紀前より繁栄している主因だ。この基本的な現実を把握しなければ、貿易から派生し広範に絡み合った利害関係を理解することはできない。

4)誤認と誤算

私の賢い友人は、国際政治は大きく3つの言葉で要約できると言う。「恐怖」、「強欲」、「愚行」だ。最初の2つ(「恐怖」と「強欲」)に関しては、すでに言及した。「アナーキー」と「勢力均衡」は恐怖に基づくもので、「自由貿易」は強欲のプラス効果だ。

3つ目の愚行も同じくらい重要だ。本気で国際政治と外交政策を理解したければ、国家の指導者たち(あるいは国家)は互いに相手を誤解し、何度も呆れるほどの愚行に及ぶという事実を認識しなくてはならない。

優秀な政策顧問も役に立たない

ある国が脅威を感じて軍備を増強すれば、周囲の国からは領土的野心があると誤解され、かえって攻撃を招いしてしまうこともある。逆に、容赦ない侵略者が自分たちの目的を偽って成功することもある。歴史について自国に好都合な作り話を国民に吹き込む国家は、他の国が歴史を自分たちと同じように解釈していないと知って激怒したりする。

国際関係論を収めた学生なら、国家の指導者はしばしば愚行に走ることを知らなければならない。経験豊かな政策顧問に囲まれていようと、巨大な政府機関や情報機関の後ろ盾があろうと変わりはない。なぜなら情報は不完全で、外交ははったりと嘘の世界だからだ。

しかも官僚や政策顧問も普通の人間で、欠点がある(卑怯、出世主義、「限定合理性」などが代表的だ)。今から5年後、詳細は覚えていなくても、次の教訓をしっかりと胸に刻んでほしい。「責任のある立場にある人間は、たいてい自分が何をしているか分かっていない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中