最新記事

子どもの貧困と格差の連鎖を止めるには「教育以外の環境」へのアプローチも不可欠

2017年7月31日(月)17時49分
福島創太(教育社会学者)


フランスの社会学者であるピエール・ブルデューは、「文化資本」という概念を提唱し、階層の再生産の原因が経済的な要因以外の、言葉づかいや行動様式、家にある絵画や書物、あるいは美術館や博物館に行く機会などからも大きく影響を受けていることを1973年に明らかにしている。

イギリスの社会学者であるバジル・バーンスタインは、中流階級と労働者階級それぞれの子どもの発話を調べ、それぞれが用いる「言語」自体が大きく異なることを1960年代に明らかにした。中流階級の発話には抽象的で一般化された表現が用いられる(精密コード)のに対し、労働者階級の子どもの発話には具体的でその場に居合わせなければわかりにくい簡潔な表現(制限コード)が用いられていたのである。

そして学校教育のなかで用いられるのは精密コードであり、精密コードをうまく扱えない労働者階級の子どもは、学校教育のなかで交わされるコミュニケーション自体をうまく扱うことができない可能性が高いことが指摘された。

つまり、用いる言語表現のレベルですでに、出身階級による差があることを指摘していたということだ。

【参考記事】麻薬と貧困、マニラの無法地帯を生きる女の物語『ローサは密告された』

「21世紀型スキル」は家庭が生み出す

こうした「学習環境以外の要因」が格差の再生産の引き金になるというのは、半世紀前までに限ったことでも、日本以外の国の出来事でも決してない。

今日本社会のなかで注目されている「21世紀型スキル」や「キー・コンピテンシー」といった新たな能力観の形成が、家庭の環境に大きく影響を受けることが明らかになっているのだ。

新しい能力観に「ポスト近代型能力」と名付けた本田由紀は、著書『多元化する能力と日本社会』のなかで、ポスト近代型能力はどのように形成されるかについて社会的に合意されたセオリーが確立されておらず、生来の資質か、成長する過程における日常的・持続的な環境要件によって規定される、つまり家庭環境という要素が重要化するということを指摘している。

先日、とある大手企業のCSR担当の方が「もう子どもの貧困は社会的課題としては注目されなくなったんですか?」と言っているのを耳にした。否、そんな訳はない。数値の上からもこの問題の解決にはまだまだ程遠いことはよく分かる。

この問題は、「学習の環境を整備する」ということだけではなく、子どもら彼らと接する全ての大人や周りの人が状況を理解したうえで、声掛けや気遣いに変化を付けるなどコミュニケーション全般で工夫を心がけることも大切だ。

そして何よりも、企業や社会がどういった目線で人材を評価し、人材にどんな能力を求めていくのか、あるいはどういった形で彼らの能力育成を行っていくのかということとセットで考え行動して初めて、この大きくて硬い「負の構造」を崩すきっかけが見つかるのではないだろうか。

【参考記事】グラミン銀行は貧困を救えない


sota0002.jpg[執筆者]
福島創太(教育社会学者)
1988年生まれ。早稲田大学法学部卒業後、株式会社リクルートに入社。転職サイト「リクナビNEXT」 の商品開発等に携わる。退社後、東京大学大学院教育学研究科修士課程比較教育社会学コースに入学。現在は、同大学院博士課程に在学しながら、中高生向けのキャリア教育プログラムの開発に従事している。著書に『ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?――キャリア思考と自己責任の罠』(ちくま新書)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

与党「地滑り的勝利」で高市トレード再開へ、日経6万

ワールド

高市首相、消費減税「やった方がいいと確信」 改憲は

ワールド

自民単独300議席超、「絶対安定多数」上回る 維新

ビジネス

自民大勝でも「放漫財政にならない」=片山財務相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日本をどうしたいのか
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 5
    背中を制する者が身体を制する...関節と腱を壊さない…
  • 6
    心停止の8割は自宅で起きている──ドラマが広める危険…
  • 7
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 8
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 9
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 10
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 10
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中