最新記事

子どもの貧困と格差の連鎖を止めるには「教育以外の環境」へのアプローチも不可欠

2017年7月31日(月)17時49分
福島創太(教育社会学者)

スタートラインに立つまで1000万円

この「標準」学歴を手にするには大きなお金がかかる。入学金や授業料だけでなく、大学入学のために必要な塾やその他の教育費を含めるとその金額は莫大なものとなる。

文部科学省が2014年に行った「子どもの学習費調査」によれば、幼稚園から高校まですべて公立に通ったとしても、約444万円かかるとされる。もちろん学習塾・予備校、家庭教師や習い事の支出もある。そういった学校外活動にかかる費用の平均は公立に通う子供で約74万円にのぼる。

2017年に行われた日本政策金融公庫の「教育費負担の実態調査」を見てみると、入学費、在学費用の平均は、国公立大学でも約485万円。ここまでで1000万円近い費用が必要となる。

【参考記事】「学費無料なんか不可能」と若者に説教するイギリスの老害

そうしたなかで、育った家庭の経済状況が厳しい場合、子どもに十分な教育環境を整えることは、とても簡単とは言えない。その結果「標準」学歴の獲得は難しくなっていく。そしてこの難しすぎる「標準」こそ、日本社会において、いまだに大手や有名企業への入社パスのような意味合いを持っている。

さらに、優良なパスとなる高偏差値大学の卒業資格を獲得しようとするなら、費用は嵩む。2011年に東京大学が行った「2010年学生生活実態調査の結果」からは、在学生の過半数の世帯年収が 950万円以上という結果が出ている(51.8%)。

活発化するNPOとその限界

「子どもの貧困」という問題が注目されて以来、貧困家庭の学習環境を整えようとする動きは非常に活発になった。例えばNPO法人「3keys(スリー・キ―ズ)」や「Learning For All(ラーニング・フォー・オ―ル)」は、学校でも家庭でもない学習支援の場を作り、多くの貧困に苦しむ子どもに学ぶ機会や居場所を提供している。

さらに昨年、日本財団が50億円を拠出して「子どもの貧困対策」に乗り出した。ベネッセと協同で、全国に100拠点、まずは居場所をつくること、そして学べる環境を整備していこうとしている。リクルートマーケティングパートナーズは、オンライン学習サービス「スタディサプリ」の開発・提供を通して、都心と地方の教育格差の是正を掲げていた。また給付型奨学金の議論も進んでいる。こうした社会の動きは、子どもの教育格差の問題に取り組む上で非常に重要な解決への糸口となっていくだろう。

それでも、なかなかこの問題が改善しない理由の1つに「学習以外の環境の未整備」という問題がある。

【参考記事】日本の若者の貧困化が「パラサイト・シングル」を増加させる

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ispace、公募新株式の発行価格468円

ワールド

パレスチナ自治政府、ラファ検問所を運営する用意ある

ワールド

維新、連立視野に自民と政策協議へ まとまれば高市氏

ワールド

ハマス引き渡しの遺体、イスラエル軍が1体は人質でな
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 10
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中