最新記事

インタビュー

「日本に移民は不要、人口減少を恐れるな」水野和夫教授

2017年7月24日(月)15時59分
長岡義博(本誌編集長)

webinvu170724-sub.jpg

水野和夫・法政大学教授

――しかし、「閉じていく」と人口は先細りになります。

先細りといっても、1億2000万人がそもそも多過ぎる。近代化とは、すなわちヨーロッパ化だと言ってもよいいが、ヨーロッパで最も成功しているドイツとフランスは国土面積が日本に近い(編集部注:フランスは55万平方キロ、ドイツは35万平方キロ、日本は38万平方キロ)。

人口はフランスが6000万人、ドイツが8000万人で、1人あたりGDPが3~4万ドル。日本は1億2000万人もいて、1人当たりGDPが独仏並み。石炭産業の盛んなドイツに比べれば日本は不利だし、居住可能な国土面積も日本は独仏より少ない。

日本だけこれほど人口が増えたのは、世界に稀に見る高度成長を達成したからで、それは日本人の勤勉さもあったでしょうけれども、朝鮮戦争やベトナム戦争のような「特需」で輸出基地になったから。

近代化の条件はこの面積で8000万人。安倍首相は「9000万人死守」と言っているが、8000万人ぐらいまでは減るのではないか。1億人以上人口がいると原則、貧しくなってしまう。逆に言うと日本は貧しくならなかったのが不思議です。

――日本は人口減少を恐れるべきではない、と。

戦争をしようと思えば人口減少は恐れなければならないのですが、戦争をしない仕組みを作っておくほうが重要です。

現代は衣食住は満ち足りている時代。車が一家に1台あり、歩いて数分のところにコンビニがある。もうすぐ自動運転も実現する。日本で年収1000万円あればルイ16世並みの生活ができるという話もあるほどで、日本で1000万円を超える給与所得者は国税庁によれば2015年度で209万人(全給与取得者の4.3%)も存在します。

絶対君主制の時代は上位1%だけが豊かになることを許される社会でした。ところが市民革命が起きて国民が主権者になった。これは、つまり、すべての人がルイ16世並みの贅沢をしたいと公言できる社会になったということです。

――「足るを知る」ことが重要に思えます。

例えばビル・ゲイツは9兆円の資産を持っていますが、彼はおそらくそれをもっと増やしたいと考えている。貨幣が権力の象徴になっているからです。ビル・ゲイツ本人に聞いたわけではないのですが、想像するに彼も内心は「(フェイスブックの)マーク・ザッカーバーグに抜かれたらどうしようか」と思っているはず。追い込まれているんです。

――日本は「強欲」なグーグルやアマゾンに攻め込まれるばかりにもなっています。

それは現在の日米の力関係を反映している鏡です。アマゾンの日本法人はあの強力な財務省に対して法人税支払いを拒否しています。アマゾンは日本法人は倉庫であり、営業活動をしていないと主張している。財務省が怠けているわけでなく、日米の力関係からそうなっているのです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可

ワールド

バイデン氏、半導体大手マイクロンへの補助金発表 最

ビジネス

米国株式市場=下落、予想下回るGDPが圧迫

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中