最新記事

インタビュー

「日本に移民は不要、人口減少を恐れるな」水野和夫教授

2017年7月24日(月)15時59分
長岡義博(本誌編集長)

東京のオフィスビルで働く人たち(2017年6月) Issei Kato-REUTERS

<トランプ当選もブレグジットも歴史の必然だ、と説く『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』著者の水野和夫・法政大学教授。「閉じた帝国」が複数並び立つ時代を、日本はどう生き抜くべきか。インタビュー後編>

常に「フロンティア」を求める資本主義とグローバリズムは終焉の時を迎え、これから世界は100年を掛けて「閉じた帝国」が複数並び立つシステムに移行する――。

超低金利政策の出口が見えず、中国という「帝国」の圧力を常に受ける日本は今後どう国際社会を生き抜くべきなのか。新著『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済 』(集英社新書)が話題の水野和夫・法政大学教授インタビュー後編。

※インタビュー前編:「グローバル化は終焉、日本はEUに加盟せよ」水野和夫教授

――アベノミクスをどう評価しますか? 著書の中では「日銀無策」と痛烈に批判していますが。

小泉純一郎氏は首相になり、「骨太の方針」で毎年のように名目3%、実質2%の成長を目指していたが、全く成長しなかった。その後の民主党も成長戦略を打ち出し、安倍首相になってアベノミクスが出てきたが、どれも中身は同じ。イノベーション、地方活性化、中小企業新興......などの順番を変えただけ。

小泉首相の02年の骨太方針から今年で15年。全然成長していないのだから、結果はおのずと出ている。金融緩和も同じです。黒田日銀総裁の量的緩和とは規模は違うけれども福井元総裁らも緩和はしていた。これもすでに十数年がたっています。しかし、デフレ脱却も経済成長も起きていません。

――一方で、景気だけ見ているとそう悪くもない。学生の就職も好調という現実があります。矛盾があるのでは?

良くなったのは株価だけでしょう。有効求人倍率は1.1を超えましたが、それは団塊の世代が大量退職したのに新卒が100万人しかいないため、需給が逼迫しているというだけのこと。労働市場で需給が逼迫したら、賃金上昇が起きなくてはいけないのですが、そうはなっていません。それは先回りして労働市場の規制緩和、つまり派遣労働を認めたため、労働者の4割が非正規雇用になってしまったからです。

さらに経産省は「ROE(自己資本利益率)最低8%」という目標を掲げ、さらに国際標準は15~20%だと比較してお尻をたたいている。企業にすれば、賃金削減の手段をもらい、利益目標を倍にせよと言われている状態です。利益は内部留保にまわされ、賃金は上がらず、雇用の需給だけが逼迫しています。

――富の偏在が加速していると。

そうです。中間層の賃金が上がらないため、金融資産をもっていない世帯が3割を越えました。それから、都市部と地方の格差も広がっています。日経新聞が「東京に預金が集中している」と書いていましたが、高齢者が年金をもらって、使い切れず貯金を積み上げたその遺産が、東京に住む子供世代に相続されています。

――日本は移民を受け入れるべきでしょうか。

そもそも移民の多くは、受け入れ国の経済的な事情で低賃金労働の門戸を開いているだけであって、移民する人たちのことを考えているわけではありません。日本も人口が足りなくなっているので移民を受け入れて成長したい、ということだと思いますが、それは移民する人々のことを考えていない。

【参考記事】日本はワースト4位、「経済民主主義指数」が示す格差への処方箋

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中