最新記事

世界経済

次の覇権国はアメリカか中国か 勝敗を占う「カネの世界史」

2017年7月22日(土)11時30分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

selensergen-iStock./GETTY IMAGES PLUS

<覇権国を嗅ぎ分ける「ベネチアのカネ」はどこへ行く。資金流出の一方で米銀行進出と錯綜する経済の裏側>

15年前、ある中国専門家が筆者に言った。「中国の政治はカネの流れで分かる」。そのとおり。世界の歴史や覇権の移行さえ、カネの流れでよく分かる。

まずはカネの流れを世界史レベルで振り返ろう。古代ローマが築いた地中海経済圏の富は中世になって沿岸の都市国家ベネチアに蓄積。この資本は16世紀末以降にオランダ、17世紀にオランダからイギリスへ、19世紀後半以降にイギリスからアメリカへ。つまり新しい覇権国へと移行していく。「ベネチアのカネ」は、次の覇権国を嗅ぎ分けるのだ。

次の移行先は中国だろうか。2000~08年の中国には、経常黒字と外国からの直接投資を合わせて、年間平均3000億ドル程度の資金が流入していた。8年間で2兆4000億ドルに達した外貨準備を背景に人民元を大量発行。インフラ建設だけでなくアリババなど新たなサービス産業で膨らませ、年間11兆ドルものGDPを稼ぐまでになった。

ところがこの数年、中国政府が人民元の買い支えに乗り出すほど、資金流出がひどかった。15年には対外直接投資の名目で約1500億ドルが流出。昨年上半期だけでも、外国でのM&Aを名目に約1200億ドルの流出を見ている。中国経済の崩壊を予見して、内外の投資家が資金を逃避させているのだろうか。

いや、むしろこの流出の要因は政治的なものだ。近年、中国政府は不正一掃キャンペーンに名を借りて、江沢民(チアン・ツォーミン)元国家主席や胡錦濤(フー・チンタオ)前国家主席系から習近平(シー・チンピン)国家主席系に利権ポストを総入れ替えしようとしている。

古手の幹部たちは慌てて横領資産をアメリカなどに移しているわけだ。対外直接投資やM&A、輸入品の支払いを装って外国へ送金したりと資本逃避の方法はさまざまだ。

このカネの流出先はアメリカ。覇権を持つのは依然としてアメリカなのだ。人民元は交換性が乏しく、中国本土の資本市場は外国企業に開放されていない。横領した金も国内で回しようがなく、中国政府でさえ有り余る外貨を米国債で運用している始末だ。

【参考記事】<ダボス会議>中国が自由経済圏の救世主という不条理

国債を外資に委ねる危険

だが最近、新しい動きが見られる。先月末、米格付け機関ムーディーズはアジアインフラ投資銀行(AIIB)に世界銀行やアジア開発銀行(ADB)と同格、つまり最上級の格付けAaaを付与。これでAIIBは低利の資金を欧米の債券市場で調達できることになった。

一方、習は4月にトランプ米大統領に示した対米貿易黒字縮小のための「100日計画」で、米金融機関2社に債券の引き受け・決済業務の免許を付与することを約束した。これは、JPモルガンなどの投資銀行が中国での全額出資の子会社設立を望んでいるのに対応したものだろう。実現すれば、経済面での米中の癒着はさらに堅固となる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「南アG20に属すべきでない」、今月の首

ワールド

トランプ氏、米中ロで非核化に取り組む可能性に言及 

ワールド

ハマス、人質遺体の返還継続 イスラエル軍のガザ攻撃

ビジネス

米ADP民間雇用、10月は4.2万人増 大幅に回復
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇の理由とは?
  • 4
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 7
    若いホホジロザメを捕食する「シャークハンター」シ…
  • 8
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中