「お金のために働くな」とファンドマネージャーは言った
「いい会社」の隣に「いいNPO」を選定する
鎌倉投信の今後の展開としては2つの方向性を考えています。
1つは「いい会社」と同じような「いいNPO」を選定することです。鎌倉投信を利用してくださる投資家の6割は積み立てなので、長期的に残高が増えていくと見込まれます。そこで出た鎌倉投信の利益は、創業時から決めている通り一定割合を寄付するわけで、その寄付先を決める必要があるからです。このNPOはちゃんとしているから寄付に値しますと、しっかり鎌倉投信の株主や「結い 2101」の受益者に説明できるような準備を始めるということです。
その時に見る視点は企業とは逆で、財務面を徹底的に分析します。というのも社会性と事業性を比べたとき、NPOは事業性がぜい弱だからです。無駄使いしているNPOは少なくないので、本当に残さないといけないNPOに対しては、持続可能な仕組みになっているか、組織力はあるのか、経営力はあるかといった観点で徹底的に財務分析していきます。企業の筋肉質な状態をNPOに求めるわけですね。
上場しない会社の資金調達や企業価値向上を支える
もう1つ、これはすでにスタートしていますが、「結い 2101」の投資対象の中で上場できるだけの売上や利益はあるけれども、あえて上場しないと決めている企業があります。例えばマザーハウス** ですね。社会的な役割を持った企業が、短期的な業績を追う投資家がいる市場には上がりたくないと言っているわけです。
私たちはそういった会社が上場しなくても成長できる環境作りを提供していかなくてはなりません。上場するのと同じ程度の資金調達、知名度の向上、そして社会的な価値の向上が実現できるように支え続けていく。いずれ、「上場しますか、それとも鎌倉投信を選びますか」ということをソーシャルベンチャーに問いかける時代がやってきたとき、頼れる存在でいられるように鎌倉投信も足腰を鍛えていく必要があります。
私たちは投信会社の枠を超えた、何でも屋なんです。営業先で心当たりがあれば情報提供もするし、「財務担当者が産休を取ることになって」と相談されれば知人にあたってみたり。どれもボランティアですよ。
社会の役に立つことをするのが目的なので、自分だけで解けない課題ならネットワークで解決します。環境づくりが大切というのはそういうことです。私たちの利益にならなくても、彼らが頑張ればお金になるわけだし、尽くすと決めたからやるだけです。
社会が豊かになるように受益者(投資家)のみなさんが僕を雇ってくれているわけです。そこに対してまっすぐでありたい。あたたかい金融はみんなを幸せにします。そうしてこれからも愛される投信会社であり続けたいと思っています。
WEB限定コンテンツ
(2016.12.28 神奈川県鎌倉市の鎌倉投信オフィスにて取材)
text: Yoshie Kaneko
photo: Hirotaka Hashimoto
* 鎌倉投信は『投信ブロガーが選ぶ! ファンドオブザイヤー』で7年連続(2009~15年)ベストテン入りした。このほか格付投資情報センターが主催するR&Iファンド大賞の投資信託国内株式部門で2013年度の最優秀ファンド賞を獲得するなどの受賞歴がある。
** マザーハウス
アパレル製品や雑貨の製造販売業。発展途上国で製品の企画・生産・品質指導を行い、完成品を先進国で販売するソーシャルビジネスを展開している。
http://www.mother-house.jp/
鎌倉投信は投信委託業務、投資信託の販売をおこなう資産運用会社。2008年11月創業。2010年3月から公募型投資信託「結い 2101」の運用を開始。投資先企業は60社、受益者数約1万6500人、運用する純資産は248億円(2016年12月現在)。
http://www.kamakuraim.jp/
新井和宏(あらい・かずひろ)
鎌倉投信株式会社 取締役 資産運用部長。1968年生まれ。東京理科大学工学部卒。住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)を経て、2000年、バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現・ブラックロック・ジャパン)に入社。企業年金・公的年金などを中心に、株式、為替、資産配分等、多岐にわたる運用業務に従事し、ファンドマネージャーとしての運用資産残高は数兆円であった。2008年11月、志を同じくする仲間4人と、鎌倉投信株式会社を創業。2010年3月より運用開始した投資信託「結い 2101」の運用責任者として活躍。他に、横浜国立大学経営学部非常勤講師(平成28年3月まで)、特定非営利活動法人「いい会社をふやしましょう」理事、経済産業省「おもてなし経営企業選」選考委員(平成24、25年度)も務めている。