最新記事

科学

ディズニーランドの行列をなくすのは不可能(と統計学者は言う)

2017年5月2日(火)12時03分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

 しかも、年間で最も混雑する日に合わせてパークを設計しても待ち時間は生じると、統計学者は確信している。ここで言う「最も混雑する日の需要」とは、単に平均化した入場者数を意味し、アトラクションごとの違いや、ある1時間と次の1時間の違いなど、人の不均衡な分布を無視している。いちばんにぎわう日にダンボに乗る総人数を正確に予測できても(それだけでも大変なことだが)、客は1日を通して不定期に集まるのにダンボの収容能力は変わらないから、順番待ちの列は必ずできるだろう。統計学的に考えると、ダンボに集まる人数の平均ではなく、いつどのくらいの人が集まるかというばらつきが、最繁期ではない日にも行列ができる理由なのだ。収容能力に基づく設計は大規模で静的な需要に対応できるが、絶えず変化する需要には対応できない(「待ち時間なし」のテーマパークをつくるには、需要に対して不釣り合いに大きい収容能力を備えなければならず、施設が無駄になる時間がかなり増えて採算が取れないことは間違いない)。

 待ち時間の秘密の法則を発見したエンジニアは、筋金入りのディズニーファンから英雄と称えられている。彼らが働くイマジニアリング部門の拠点は、ロサンゼルス近郊のカリフォルニア州グレンデールにある数棟の目立たない建物だ。ここでは新しいアトラクションの設計も行っており、スリルの創造だけでなく運用管理も担当している。

 待ち時間の研究はコンピュータシミュレーションに頼るところが大きい。行列に関する計算は超複雑で、わかりやすい公式に単純化できない場合が多いからだ。what-if 分析(訳注:仮定を考えて結果を評価する分析)をフル回転で行うマシンがずらりと並ぶ「コンピュータ農場」だ。数万通りか、おそらく数百万通りのシナリオを精査し、パーク全体の人の動きについて可能なかぎりのパターンを網羅する。これらのシナリオを集計すると、たとえば、ある日にダンボの収容能力の95%に達する可能性といった統計の話になる。

 扱いにくい数学的問題に取り組むこうした創造的なアプローチは、第2次世界大戦中に原子爆弾を開発したアメリカのマンハッタン計画が考案した。マイケル・ルイスが『マネー・ボール』で描いたオークランド・アスレチックスの物語の基本も、このアプローチだ。アスレチックスはメジャーリーグの世界で統計を武器に、はるかに潤沢な資金を持つ強豪球団を出し抜いた。

※第2回:ディズニーランド「ファストパス」で待ち時間は短くならない


『ヤバい統計学』
 カイザー・ファング 著
 矢羽野 薫 訳
 CCCメディアハウス


【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!

毎日配信のHTMLメールとしてリニューアルしました。

リニューアル記念として、メルマガ限定のオリジナル記事を毎日平日アップ(~5/19)

ご登録(無料)はこちらから=>>


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア凍結資産、ウクライナ支援に早急に利用=有志連

ビジネス

NY外為市場=ドル小動き、米利下げ観測維持 CPI

ワールド

トランプ氏、貿易に焦点 習氏との首脳会談で=米高官

ビジネス

米国株式市場=主要3指数最高値、予想下回るCPI好
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...装いの「ある点」めぐってネット騒然
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月29日、ハーバード大教授「休暇はXデーの前に」
  • 4
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 9
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中