最新記事

サイエンス

すぐに拾えばOK?「5秒ルール」の真実

2016年11月2日(水)10時30分
イアン・グレイバー・スティール

 とはいえ、こうした研究は私たちが最も知りたい疑問には答えていない。一般の人々が何よりも気になるのは、落とした食べ物に細菌が付いているか自体ではなく、それを食べても病気にならないかどうかだ。

 実験では有害な細菌を意図的に床にまいているため、そこに落ちた食べ物を食べたらおなかを壊すかもしれないが、それでは答えにならない。日常生活で床に落としたものを食べても大丈夫かどうかを判断するには、そもそも家庭の床にどんな細菌がいるのかが問題になる。

 その点に迫る研究もわずかながらある。家の中ではキッチンやトイレの床に体に悪い細菌が多いイメージがあるが、21世帯を調査した70年代の研究によれば、家庭内の他の場所と大差なかった。最も細菌が多いのはキッチンのシンクの中だったが、無害な細菌も多かった。家庭内で見つかる細菌の多くは人間の皮膚に普段から存在しているもので、比較的無害だとする研究もある。

【参考記事】「チップ上の心臓」を3Dプリンタで製作:ハーバード大が世界で初めて成功

 さらにオフィス環境を調べた05年の研究では、床が意外と清潔なことも分かっている。じゅうたん張りの床と空気中の汚染状況を比較したところ、床のほうが細菌が少なかったのだ。

 だからといって、あなたの家の食卓や職場のデスクの下の床が清潔だとは言い切れない。それでも、5秒ルールは信用してもよさそうだ。そもそもこのルールがこれほど浸透しているのは、落としたものを拾って食べた人の大半がおなかを壊さなかったということなのだから。

© 2016, Slate

[2016年11月 1日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国、来年も政府債発行を「高水準」に維持へ=関係筋

ワールド

ロシアがウクライナを大規模攻撃、3人死亡 各地で停

ワールド

中国、米国に核軍縮の責任果たすよう要求 米国防総省

ビジネス

三井住友トラスト、次期社長に大山氏 海外での資産運
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 6
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 7
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中