ノーベル平和賞以上の価値があるコンゴ人のデニ・ムクウェゲ医師 ―性的テロリズムの影響力とコンゴ東部の実態―

2016年10月18日(火)17時10分
米川正子(立教大学特任准教授、コンゴの性暴力と紛争を考える会)

 第1に、1920年代以降、ルワンダ人(多数派フツと少数派ツチ)が移民や難民としてコンゴ東部に半強制的に移動したために、コンゴ東部にはルワンダ系住民が多く、コンゴの国籍を取得したことだ。ルワンダ人の中でも特にツチが1960年代以降、コンゴの政治と経済に影響を及ぼし、それが現在でも続いている。

 第2に、コンゴは一応独立した国家であるが、1997年以降、政治・軍事組織がルワンダの直接的な影響の下に置かれていることだ。コンゴ国家の主要なアクターはルワンダ人であると信じられ、その代表的なアクターがジョセフ・カビラ現大統領である。そのため、コンゴ政府は1998~2000年を除いて、2001年以降、ルワンダ政府の代行としてコンゴ東部に占領してきた「コンゴ」反政府勢力を非難したことがない。

 第3に、コンゴの大戦以降の2002年に、ルワンダ軍を含むすべての外国軍がコンゴの領土から即時撤退が要求されたにもかかわらず、ルワンダ軍は完全に撤退しなかったことだ。それどころか、PKOによる平和構築の名の下で実施されたコンゴ軍の「軍統合」の際に、ルワンダ軍(「コンゴ」反政府勢力がその代理)とルワンダ反政府勢力はコンゴ軍に「潜入」(infiltrate)したのである。そのルワンダ軍・諜報機関の幹部は、コンゴの国籍をこっそりと取得した。

 ルワンダ軍による「偽装占領」だけが問題ではない。1998年と2010年の国連報告書によると、1996~7年にルワンダ軍らはルワンダ難民とコンゴの市民に対して「ジェノサイド」と特徴づけられる罪を犯した。それに加えて、1994年、ルワンダの「ジェノサイド」のきっかけとなった大統領機の撃墜に関しても、当時のルワンダ政府軍(多数派フツが主導)ではなく、当時のルワンダ反政府勢力、つまりルワンダ現政権(少数派ツチが主導)が犯したとのことだ。これは、カガメ大統領の元側近の証言によるものである(注9)。ルワンダの「ジェノサイド」も、通説によるとフツ過激派がツチを殺戮したとのことだが、逆にツチもフツを殺戮したことが国連のグソーニー報告書やルワンダ軍の離脱者の証言によって明らかになっている。これが真実であれば、ルワンダの「ジェノサイド」は「ダブル・ジェノサイド」(注10)、あるいは内戦と呼ばれるべきだ。

 実はルワンダとコンゴ東部における紛争の実態は、1990年代後半以降、国連調査団、国連専門家グループやフランスの判事らによって何度も公表されてきたが、その紛争中に犯された重大な罪について米国とイギリスが主導している安保理では議論されることはこれまで一度もない。

2016101718210234.jpg

――――――――

(注9)Abdul Joshua Ruzibiza, 2005, Rwanda: L'historie secrete. Paris: Panama, 241-245 ; Theogene Rudasingwa, 2013. Healing A Nation, A Testimony: Waging and Winning a Peaceful Revolution to Unite and Heal Broken Rwanda. South Carolina: CreateSpace Independent Publishing Platform, 413-415.
(注10)ダブル・ジェノサイド説は、1994年前のルワンダ旧政権と当時の反政府勢力のRPF(現政権)がジェノサイドに関与したことを意味する。1994 年 6 月、フランスのアラン・ジュペ外務大臣(当時)がジェノサイドについて執筆した際、双方が罪を犯しているという意味を示唆して、複数形のジェノサイド 'genocides'を用いた。フランスのフランソワ・ミッテラン大統領(当時)も 1994 年 11 月に行われた演説で、同様の表現を使った。 RPF の元メンバーのアブデゥル・ジョシュア・ルジビザ氏もまた、ダブル・ジェノサイドを明白に論じている。Juppe, 'Intervenir au Rwanda', Liberation , June 16, 1994; Mitterand, 'Discours de Monsieur Francois Mitterand', Biarritz, 8 November 1994, 4; Ruzibiza, Rwanda. L'histoire secrete, 328-336.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国こそが「真の脅威」、台湾が中国外相のミュンヘン

ワールド

米中「デカップリング論」に警鐘、中国外相がミュンヘ

ビジネス

ウォルマート決算や経済指標に注目、「AIの負の影響

ワールド

ドバイ港湾DPワールドのトップ辞任、「エプスタイン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 2
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 5
    それで街を歩いて大丈夫? 米モデル、「目のやり場に…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 8
    【インタビュー】「4回転の神」イリヤ・マリニンが語…
  • 9
    機内の通路を這い回る男性客...閉ざされた空間での「…
  • 10
    反ワクチン政策が人命を奪い始めた
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 6
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 9
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 10
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中