ノーベル平和賞以上の価値があるコンゴ人のデニ・ムクウェゲ医師 ―性的テロリズムの影響力とコンゴ東部の実態―

2016年10月18日(火)17時10分
米川正子(立教大学特任准教授、コンゴの性暴力と紛争を考える会)

 このように政治的に敵対関係にあると信じられているアクターが、実は経済的サバイバル、天然資源の搾取や土地の支配のために、現地に混乱状態を意図的に長期化させ、そして相互の存在を活用しあい協力が生まれることがある。コンゴ東部の長期化した「紛争」はまさにさまざまなアクターが演じている「茶番劇」であり、「喜劇」とさえ呼んでいるコンゴ人もいる。

 上述のように、ムクウェゲ医師によると、国軍と武装勢力は証拠を残さないためにも殺戮ではなく性的テロリズムでコミュニティーを破壊している。では、なぜベニでは現在も殺戮が続いているのか。この殺戮が現在進行形であるため現時点で十分に分析できない。が、推測としては、コンゴ軍がADFというイスラミスト系勢力をスケープゴートとして使っているのか、あるいはベニから住民を追放しなければならない特別で緊急の理由があるのか。ただ一つ事実として言えることは、ベニ付近には3000人のPKO要員がいるにもかかわらず、その殺戮を止められないことである。

161017_004.jpg

 France 24というフランスのメディアは2016年8月16日、「コンゴ・北キブ州、忘れられた戦争」というテーマで、ベニにおける殺戮について議論した。しかし二者以上のアクターが戦闘している「戦争」ではなく、コンゴ軍と反政府勢力が一方的に市民を殺戮している。

 東大での一人デモの若者が、ベニにおける殺戮にフラストレーションと怒りを抱いていたことは明らかであろう。

ルワンダに「偽装占領」されているコンゴ東部

 ムクウェゲ医師の活動拠点であるコンゴ東部のブカブは南キブ州の州都であり、かつ過去20年間、「紛争」の中心地でもある。紛争地なので当然大変難しい環境と想像できるが、その難しさのレベルについて理解している人は非常に少ないと思う。

 コンゴ東部は「第一次アフリカ大戦」と呼ばれたものも含めて、1996年から和平合意が成立した2002年まで武力紛争が続いたが、現在も上記のように「茶番劇」的な「紛争」が継続している。もっと正確に言うと、1996年9月にルワンダ軍とルワンダ政府の代理である「コンゴ」武装勢力がコンゴ東部に侵攻し、現在もルワンダ軍がコンゴ東部を「偽装占領」し続けている。だが、例えばイスラエルがパレスチナに入植地を建てて、あからさまに軍事占領していることは国際的に認識されているのに比べて、コンゴ東部の占領は不可視化しているため認識されていない。

 なぜ認識されていないのか?それには理由が3点ある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ノーベル賞マチャド氏の盟友、釈放直後に拉致される 

ワールド

香港紙創業者に懲役20年、国安法裁判 外国勢力と結

ビジネス

街角景気1月は0.1ポイント低下、3カ月連続の悪化

ワールド

韓国大統領、高市首相に祝意 衆院選の自民勝利で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日本をどうしたいのか
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 5
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 6
    背中を制する者が身体を制する...関節と腱を壊さない…
  • 7
    飛行機内で隣の客が「最悪」のマナー違反、「体を密…
  • 8
    「右足全体が食われた」...突如ビーチに現れたサメが…
  • 9
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 10
    心停止の8割は自宅で起きている──ドラマが広める危険…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 9
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中