ノーベル平和賞以上の価値があるコンゴ人のデニ・ムクウェゲ医師 ―性的テロリズムの影響力とコンゴ東部の実態―
このように政治的に敵対関係にあると信じられているアクターが、実は経済的サバイバル、天然資源の搾取や土地の支配のために、現地に混乱状態を意図的に長期化させ、そして相互の存在を活用しあい協力が生まれることがある。コンゴ東部の長期化した「紛争」はまさにさまざまなアクターが演じている「茶番劇」であり、「喜劇」とさえ呼んでいるコンゴ人もいる。
上述のように、ムクウェゲ医師によると、国軍と武装勢力は証拠を残さないためにも殺戮ではなく性的テロリズムでコミュニティーを破壊している。では、なぜベニでは現在も殺戮が続いているのか。この殺戮が現在進行形であるため現時点で十分に分析できない。が、推測としては、コンゴ軍がADFというイスラミスト系勢力をスケープゴートとして使っているのか、あるいはベニから住民を追放しなければならない特別で緊急の理由があるのか。ただ一つ事実として言えることは、ベニ付近には3000人のPKO要員がいるにもかかわらず、その殺戮を止められないことである。
France 24というフランスのメディアは2016年8月16日、「コンゴ・北キブ州、忘れられた戦争」というテーマで、ベニにおける殺戮について議論した。しかし二者以上のアクターが戦闘している「戦争」ではなく、コンゴ軍と反政府勢力が一方的に市民を殺戮している。
東大での一人デモの若者が、ベニにおける殺戮にフラストレーションと怒りを抱いていたことは明らかであろう。
ルワンダに「偽装占領」されているコンゴ東部
ムクウェゲ医師の活動拠点であるコンゴ東部のブカブは南キブ州の州都であり、かつ過去20年間、「紛争」の中心地でもある。紛争地なので当然大変難しい環境と想像できるが、その難しさのレベルについて理解している人は非常に少ないと思う。
コンゴ東部は「第一次アフリカ大戦」と呼ばれたものも含めて、1996年から和平合意が成立した2002年まで武力紛争が続いたが、現在も上記のように「茶番劇」的な「紛争」が継続している。もっと正確に言うと、1996年9月にルワンダ軍とルワンダ政府の代理である「コンゴ」武装勢力がコンゴ東部に侵攻し、現在もルワンダ軍がコンゴ東部を「偽装占領」し続けている。だが、例えばイスラエルがパレスチナに入植地を建てて、あからさまに軍事占領していることは国際的に認識されているのに比べて、コンゴ東部の占領は不可視化しているため認識されていない。
なぜ認識されていないのか?それには理由が3点ある。