黒人射殺事件の連鎖を生む元凶は
Carlo Allegri-REUTERS
<アメリカで今年立て続けに発生した警官による黒人射殺事件とダラスの警官銃撃事件の根底にあるのは、銃の蔓延が生み出す恐怖とパニックだ>(写真はダラスの事件で射殺された警官の同僚)
フィランド・カスティールは、ミネソタ州セントポールの私立学校で食堂の責任者を務めていた。32歳の黒人男性である彼は「フィル」という愛称で呼ばれ、みんなに愛されていた。
フィルはもういない。今年7月、セントポール近郊で自動車を運転していたとき、警官に停止を求められ、その揚げ句に射殺されたのだ。警官が車を止めさせた理由は、テールライトが壊れていることだったという。
黒人男性が警官に射殺される事件が相次いでいる。これらの事件と人種の関係については、多くの指摘がなされている。
ミネソタ州のマーク・デイトン知事は事件後、きっぱりこう述べた。「車の運転手や同乗者が白人だったら、こんなことは起きただろうか。起きなかったに違いないと私は思う」。デイトンの言うとおりだ。バラク・オバマ大統領も先週、フィルのような事件は特異なケースでないと指摘した。「わが国の刑事司法制度に存在する人種間の不平等を浮き彫りにしている」
フィルの死に人種が大きく影響したことは間違いない。しかし、この事件を考える上で見落としてはならない要素がもう1つある。それは銃の存在だ。
車に同乗していたガールフレンドの説明によれば、フィルは警官に銃を所持していると自発的に申告した(市民は警官と対したとき、銃の所持を自己申告するよう推奨されている)。
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警官を怯えさせる銃の影
しかし、それが警官の判断に影響することはなかった。フィルが財布に手を伸ばすと、警官はとっさに「銃だ」と思い、車に向けて発砲し始めた(ただし、その警官の証言は明らかになっておらず、発砲に至るまでの経緯を映した動画も存在しない)。
フィルの事件の前日には、ルイジアナ州バトンルージュでも黒人男性が警官に射殺された。地面に押さえ付けられた上で、胸を撃たれたのだ。その男性、アルトン・スターリング(37)も銃を所持していた。事件の直前に自衛のために購入したものだったようだ。
銃を所持する人が増えれば、警官も民間人も、町で遭遇する誰もが銃を持っているという前提でものを考えるようになる。その恐怖の下では、人は冷静な思考や話し合いをせずに、とっさに行動しがちになる。
一部の警察組織が銃規制の緩和に懸念を表明しているのには、もっともな理由がある。それが警官の仕事を一層難しくすると理解しているのだ。