夢の3Dプリンターはもう失速
3Dプリント業界を駆け巡る熱狂は、その期待と現実との間に隔たりを生んだ。デジタルデザインのスタジオ「メイクモード」はメーカーボットの2500ドルの機種など低価格プリンターを2台購入したが、どちらも頻繁に故障。結局はストラタシスの2万2000ドルと3Dシステムズの6万5000ドルの高額機種に買い替える羽目になった。
低価格プリンターのトラブルや訴訟が相次ぎ、メーカーボットの経営は悪化。親会社ストラタシスの株価も急落した。低価格機種への参入を狙っていた3Dシステムズの株価も暴落した。
それでも専門家は、3Dプリントの未来を楽観している。コンサルティング会社ウォーラーズ・アソシエイツは、2021年までに同業界は212億ドル規模に成長するとみている。
一般向けは製造打ち切り
ただし同社は、低価格の一般消費者向けプリンターには懐疑的だ。「蛍光グリーンのヨーダ人形でも飽きるほど作って、しまいには何で3Dプリンターを買ったんだっけ、と思うのがオチだ」と、上級コンサルタントのティム・キャフリーは言う。彼らの調査では今後、高品質・高価格の3Dプリンターを、より多くの産業系顧客が購入するようになる見込みが高いという。
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例えば金属を素材として使用できる3Dプリンターは、今では製造ラインに取り入れられている。航空機大手エアバスは既に、1000以上の部品を3Dプリンターで作製している。
大手2社は、自動車や医療、歯科などへの応用も狙う。その一方で3Dシステムズは一般消費者向け製品に見切りをつけ、昨年12月に低価格プリンターの製造を打ち切った。
では、各家庭でカスタマイズ商品をプリントできるという新・産業革命の夢はどこへ行ったのか。「5年後にそれも実現できると私は信じている」と、メーカーボットのジョナサン・ジャグラムCEOは言う。今のところ家庭の3Dプリンターで使える素材はプラスチックしかないことや、信頼性の問題も解決できるだろうと彼は自信を見せる。
ジャグラムは今年4月、3Dプリンター製品デザインを共有できるサイト「シンギバーズ」を開発者に開放すると発表した。アップストアの開発競争がiPhone普及を後押ししたように、オープンソースのサイトが開発参入の垣根を低くし、活性化につながると考えている。
だがそうした取り組みも、投資家の受けはいまひとつのようだ。今年4月、メーカーボットは自社工場の従業員の大半を解雇して、プリンター製造をアウトソーシングすることを決定。翌月には大手2社の株価も大幅に下落した。
投資家たちは気付いているのかもしれない。3Dプリント業界が昔ながらの製造業の道のりをなぞるのなら、しょせん革命なんか起きないだろう、と。
[2016年8月 2日号掲載]