最新記事

法からのぞく日本社会

参院選は7月11日生まれの「17歳」も投票できます

2016年6月30日(木)16時53分
長嶺超輝(ライター)

 この説明に対して「わかったようで、どうも、よくわからん」という感想を抱いた方も多いのではないだろうか。だとしたら恐縮である。説明している私自身が、(理屈の流れはともかく)この結論を感覚的に受け止めきれていないからだろう。

 とはいえ、選挙権が「18歳の誕生日の前日」に与えられるという結論自体は、この国の最高裁判所が正式に出した判例(最高裁判所第一小法廷1980年2月14日判決 昭和54(行ツ)第67号/原審:大阪高等裁判所1979年11月22日判決 昭和54(行ケ)第2号)であり、選挙管理委員会も実際にそのような運用で選挙実務を進めている。

 たしかに違和感はある。だが、わざわざ法律を変えてまで修正すべき違和感でもない。この程度のズレで済んでいるなら、可愛いものかもしれない。常識と法律がもっと派手に食い違っている例は他にもあるはずだ。 

なぜ「18歳」に引き下げられたか

 世界でも屈指の速度で少子高齢化が進んでいく日本で、選挙権年齢が「20歳以上」のままならば、若者票の割合が年々減少し、「シルバー民主主義」の流れに歯止めが利かなくなってしまう。

【参考記事】「予備選」が導入できない日本政治の残念な現状

 米国の統計学者、ポール・ドメイン氏は、生まれたばかりの赤ん坊から選挙権を与えて、親が投票を代行することを認める「0歳選挙権」を提唱する。少子高齢化で生じた参政権のアンバランスを抜本的に是正しようとするアイデアだが、実現へのハードルは高い。子どもを持つ家庭にのみ、実質的な複数投票を認める不公平感を訴える意見もあるし、代行可能な選挙権は悪用されるリスクもある。

【参考記事】国民投票か、間接民主制か? 理想の選挙制度を探して

 やはり、「選挙権年齢の引き下げ」によって、若い有権者を拡大することが現実的な対策だ。では、なぜ「19歳」でも「17歳」でもなく、「18歳」なのだろうか。

 ただ単に、世界の9割近くの国で、すでに選挙権年齢は「18歳以上」という基準が当然のものとされていて、日本もそれに追随したにすぎない。

「12インチで1フィート」「12個で1ダース」のように、12進法が主流の欧米では、しばしば「3の倍数」が切りのいい数字として重宝される。「18歳」もその一環なのかもしれないが、もちろん絶対的な基準ではない。オーストリアやブラジルなど、「16歳選挙権」が導入されている国もある。アジア諸国では、インドネシアは「17歳」、韓国は「19歳」、シンガポールやマレーシアは「21歳」などどなっている。

 それぞれの国において、年齢ごとにできることとできないことを精査し、全体としてバランスを調整しながら、選挙権年齢を検討すべきなのかもしれない。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ルーブル美術館強盗、仏国内で批判 政府が警備巡り緊

ビジネス

米韓の通貨スワップ協議せず、貿易合意に不適切=韓国

ワールド

自民と維新、連立政権樹立で正式合意 あす「高市首相

ワールド

プーチン氏のハンガリー訪問、好ましくない=EU外相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 6
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 7
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 8
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 10
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中