最新記事

ラオス

何もなかった建設予定地、中国-ラオス鉄道が描く不透明な未来

「一帯一路」構想を掲げ、雲南~ビエンチャン~バンコク~シンガポールに至る鉄道建設を狙う中国だが、その実態は……

2016年5月16日(月)16時41分
舛友雄大(シンガポール国立大学アジア・グローバリゼーション研究所研究員)

建設開始の気配なし 首都ビエンチャンの郊外、中国-ラオス鉄道の起工式が行われ、最初の主要駅が建設される予定の場所(撮影:筆者、2016年2月7日)

 市の中心部から離れるにつれ、車や歩行者がより一層まばらになってきた。たまに商店を見かける以外は、草木や田畑が辺り一面に広がるだけ。幹線道路から、赤土が丸出しになっている未舗装の路地に入ると、乗っている車がガタガタと揺れた。こうして、ようやく目的地についた。

masutomo160516-b.jpg

主要駅の建設予定地へと続く未舗装の路地(撮影:筆者)

 ラオスの首都ビエンチャンの郊外。ここに、東南アジアで中国が「南進」を進めている高速鉄道網の最初の主要駅が建設される予定になっている。大きな空き地の正面真ん中にポツンと黒い礎石が立っている。その表面には、ラオス語もあるが、もっと大きな中国語で「奠基(定礎)」と誇らしげに書かれている。

 ラオス建国40周年記念日にあたる2015年12月2日、両国の政治家や商人がここを訪れ、中国-ラオス鉄道の起工式を行った。2カ月以上過ぎた2月7日に訪れた際、ここで建設が始まる気配は全く感じられなかった。

 この空き地のすぐ側に、粗末な小屋で働く地元民がいた。聞いてみると、耕作や魚釣り、鶏の飼育などの手伝いをしているという。その中の1人、バンクさん(26)は鉄道計画について複雑な思いを持っている。「開発自体はいいことだが、自分たちには(工事について)何の事前通知もなかった。だから嬉しくはない」。そう言葉少なに語った。

 ただ、多くの現地人はむしろこの計画を歓迎している。この国には、ビエンチャンとメコン川を挟んだタイ側のノンカイとを結ぶ全長わずか3.5キロの路線があるのみで、本格的な鉄道建設は初めてだからだ。

 近くに住み、観光業を営んでいるポン・バンナシーさんもこのプロジェクトに期待を寄せる。「中国に行くのが便利になるし、中国製の商品がもっと手に入りやすくなる」。ただ、「僕たちは中国とラオス政府がどう合意して、何を取引したのかは知らない。ラオス人は怠惰で、プロジェクトの詳細について知ろうとはしない」とも語る。

<参考記事>パクリもここまで来た仰天「ディズニーラオス」

 今回の鉄道計画は、中国の雲南省昆明からラオスのビエンチャンまでの全長427キロ。このうち、60%以上が高架やトンネルになり、中国で普及している旅客貨物混用の線路となる予定だ。最高時速が160キロで、中国側は2020年の建設完了を謳っている。10万人に達する労働者が必要で、そのうちの多くが中国人になると見られている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米農場の移民労働者、トランプ氏が滞在容認

ビジネス

中国、太陽光発電業界の低価格競争を抑制へ 旧式生産

ワールド

原油先物は横ばい、米雇用統計受け 関税巡り不透明感

ワールド

戦闘機パイロットの死、兵器供与の必要性示す=ウクラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 7
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 6
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中