同胞の部屋探しを助ける中国出身の不動産会社社長(前編)
不動産業をはじめたころは何もわからず、手探りで川を渡るような状態だった。ただ、幸い当時、新華僑〔中国の改革開放政策の実施以降、海外に出た華僑〕がはじめた不動産会社は、東京ではわが社が第1号、唯一無二の存在だった。それでわが社の名前を「東拓」とした。つまり「東京開拓」という意味だ。会社は北区東十条に設立した。
オープンしたころは、その光景に誰もが驚き目をむいた。カウンターの前には一列になったお客が座り、その後ろにも多くのお客が列をつくった。部屋の外にも順番を待つ人たちがいて、1組が去れば、また1組がやってきた。時には物件の間取り図を持ったままで、この人に決まらなければ次の人に渡すといった調子で、ビジネスは上々だった。当時は毎日そんな様子で、警察だって自転車で駆けつけてきて、わが社の盛況ぶりを眺めていた。
みんなが部屋を借りるのに、なぜ「東拓」へ来るか。答えはシンプルだ。彼らは日本語ができないので、日本の不動産会社は彼らに部屋を貸してくれないのだ。
また、日本の不動産会社は業務範囲が決まっていて、範囲内のことならよくしてくれるが、範囲外のプライベートなことまでは手助けしてくれない。だが、私たちの当時のお客はほとんどが日本語のできない中国人で、部屋を借りる以外にもサポートを求めていた。家主とのやりとりやゴミの捨て方。細かなところでは契約後に客をスーパーへ連れて行き、排水口用ネットを買って、これがなければパイプが詰まると教えてあげた。のちにこうした小さなグッズは常時用意しておき、お客に進呈するようにした。
わが社は水道、電気、ガス会社との契約もサポートしているが、中には子どもの進学のことまで電話で相談してくる人もいる。私たちは基本的に、求められれば必ず応じるというスタンスだ。海外生活は容易ではないので、できるだけサポートしようと思っている。会社のスタッフは「私たちの仕事はメイドみたいですね」という。自分が来日したころ、こんな「メイド」がいればどんなにありがたかったことだろう。
日本の特徴は「真」
いま中国人はわりあい裕福で、日本で家を買う人も増えてきた。中日関係は年々、坂を下るように下降しているが、来日して住宅を購入する中国人はかえって増えている。近年の中国の住宅価格の高騰に比べれば、日本の住宅価格はおおむね安定しているからだ。