最新記事

BOOKS

同性カップルの子が学校に通う社会という未来に向けて

2016年4月18日(月)16時58分
印南敦史(作家、書評家)

 事実、著者もこの点を重大に扱っている。「母体が悲鳴を上げる」こともあって、なかには二度と赤ちゃんを産めない体になってしまった人もいるというのである。そもそも妊娠、出産自体がリスクを伴うことであるだけに、むしろ当然のことだといえるだろう。なのになぜ、「代理母」として他人のためになろうという人がいるのだろう? そのことを解き明かすべく、著者は代理母にもインタビューを行っている。


「一人目の子を妊娠中、アレルギーも頭痛もなくなって、体調が最高によくなったんです。何かが乗り移ったみたいで、一生妊娠していてもいいわ、と思ったくらい。でも、我が家は子どもは三人で十分。ある時、私には代理母が天職なんじゃないかと思いついたんです。当時は商業的な代理出産を認めていない州に住んでいたので、テキサス州に転居してから仲介業者に登録しました。ずっと人の助けになることがしたかったし、自宅で子どもたちのそばにいながらできることも大きかったですね」。(63~64ページより)

 そう語る34歳の代理母は、依頼者の"夫夫"と初めて会った日は、初デートのように緊張したと振り返る。男性のひとりは骨肉腫のため右脚を太腿から切断し、義足をつけていた。「赤ちゃんに障害が見つかったとしても、産んでもらいたい」といわれ、自分の第二子にも障害があるため、彼女は好感を抱いたのだそうだ。

 またそれ以外のケースも紹介されているが、代理母の成功例に共通しているのは、依頼者との信頼関係だ。逆に、話して少しでも「あれっ?」と感じたら断った方がいいというが、たしかに意思を共有できるのなら、それは「あり」なことなのかもしれない。

 ただし、それはあくまで親の側の話だということを忘れてはならない。愛情をかけてきちんと育てれば、同姓カップルと子どもとの間にも信頼関係は生まれるだろう。そういう意味では、「同姓カップルの子だから」というデメリットはないようにも見える。

 ところが、そうといい切れるはずはないのだ。なぜなら人間には多かれ少なかれ、差別意識や偏見があるものだから。事実、近年LGBTの中学生や高校生がカミングアウトするケースが増え、彼らを積極的にサポートする学校が出てきたというアメリカでは、その一方で同級生によるいじめや教師からの心ない発言が後を絶たないのだという。

【参考記事】ミシシッピ州で「反LGBT法」成立、広範な差別が合法に

 ニューヨークに本部を持ち、LGBTの中高生らを支援するNPO「ゲイ、レズビアン、ストレート教育ネットワーク(GLSEN)」が2008年に学齢期のLGBT親子を対象にした調査からも、そのような実態が浮かび上がる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中