最新記事

BOOKS

同性カップルの子が学校に通う社会という未来に向けて

2016年4月18日(月)16時58分
印南敦史(作家、書評家)


 LGBTの親たちの回答からは、学校現場で十分に理解が進んでいない実態が浮かび上がった。
 学校コミュニティーから排除されていると感じる親は五割強にのぼり、一五%は学校の行事から排除されていると感じていた。例えば、〈息子が母の日のために贈り物を二つ作ることを先生が許してくれなかった〉、〈子どものクラスの保護者ボランティアとして、(同性親の)私たち二人が同時に学校に来られたら困る、と言われた〉などだ。ネガティブな反応を恐れて、学校行事に顔を出さないと回答した親もいた。(131~132ページより)


 子どもたちの自由記述を見ると、「言葉による嫌がらせ」が学校で日常化している様子がうかがえる。ある高校二年の男子生徒は、スピーチの授業で自分が一番影響を受けた人の話をするように言われ、レズビアンの母について発表したところ、〈他の生徒が「罪人がいい影響を与えるはずがない」と発言した〉と書いた。〈僕の父がゲイだと知った同級生が「だから、◯◯(生徒の名前)もホモっぽいんだ」と話していた〉(中学二年の男子生徒)、〈「母親が同性愛者じゃなくてよかった。もしそうだったら、自殺してると思う」と言った人がいる〉(中学二年の女子生徒)という記述もあった。(133ページより)

 しかも子どもたちが直面するのは、同級生からの偏見だけではない。他の保護者や教師、校長、学校職員などの大人から不当な扱いを受ける子も多いという話には、十分に納得できる。

 個人的には、むしろ子どもが直面するそういった問題のほうが気になる。もちろん親である同性カップルの苦悩にも目を向けるべきだし、われわれはできる限り、彼らと気持ちを共有していくべきだ。

 だが、そこにばかり目を向けるのではなく、子どもたちのことも同じくらい、もしかしたらそれ以上に考えていくべきなのではないか。ゲイビーが社会的に認知されつつある以上、その子どもたちも確実に増えていくのだから。

 そしてもうひとつ。ここに書かれていることを他人事と捉えるべきではないとも思う。前述した渋谷区の例を持ち出すまでもなく、同性カップルおよびその子どもたちは、我が国にも増えていくはずだからだ。

 そのとき私たちがすべきなのは、彼らに寄り添い、気持ちを共有することだ。そのためには、ここに書かれていることがきっと役立つ。つまり本書は、私たちの将来にもつながっていると理解する必要があるのだ。


『ルポ 同性カップルの子どもたち
 ――アメリカ「ゲイビーブーム」を追う』
 杉山麻里子 著
 岩波書店

[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「Suzie」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、多方面で活躍中。2月26日に新刊『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)を上梓。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米「夏のブラックフライデー」、オンライン売上高が3

ワールド

オーストラリア、いかなる紛争にも事前に軍派遣の約束

ワールド

イラン外相、IAEAとの協力に前向き 査察には慎重

ワールド

金総書記がロシア外相と会談、ウクライナ紛争巡り全面
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 3
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打って出たときの顛末
  • 4
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 5
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 8
    【クイズ】未踏峰(誰も登ったことがない山)の中で…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 7
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中