同性カップルの子が学校に通う社会という未来に向けて
LGBTの親たちの回答からは、学校現場で十分に理解が進んでいない実態が浮かび上がった。
学校コミュニティーから排除されていると感じる親は五割強にのぼり、一五%は学校の行事から排除されていると感じていた。例えば、〈息子が母の日のために贈り物を二つ作ることを先生が許してくれなかった〉、〈子どものクラスの保護者ボランティアとして、(同性親の)私たち二人が同時に学校に来られたら困る、と言われた〉などだ。ネガティブな反応を恐れて、学校行事に顔を出さないと回答した親もいた。(131~132ページより)
子どもたちの自由記述を見ると、「言葉による嫌がらせ」が学校で日常化している様子がうかがえる。ある高校二年の男子生徒は、スピーチの授業で自分が一番影響を受けた人の話をするように言われ、レズビアンの母について発表したところ、〈他の生徒が「罪人がいい影響を与えるはずがない」と発言した〉と書いた。〈僕の父がゲイだと知った同級生が「だから、◯◯(生徒の名前)もホモっぽいんだ」と話していた〉(中学二年の男子生徒)、〈「母親が同性愛者じゃなくてよかった。もしそうだったら、自殺してると思う」と言った人がいる〉(中学二年の女子生徒)という記述もあった。(133ページより)
しかも子どもたちが直面するのは、同級生からの偏見だけではない。他の保護者や教師、校長、学校職員などの大人から不当な扱いを受ける子も多いという話には、十分に納得できる。
個人的には、むしろ子どもが直面するそういった問題のほうが気になる。もちろん親である同性カップルの苦悩にも目を向けるべきだし、われわれはできる限り、彼らと気持ちを共有していくべきだ。
だが、そこにばかり目を向けるのではなく、子どもたちのことも同じくらい、もしかしたらそれ以上に考えていくべきなのではないか。ゲイビーが社会的に認知されつつある以上、その子どもたちも確実に増えていくのだから。
そしてもうひとつ。ここに書かれていることを他人事と捉えるべきではないとも思う。前述した渋谷区の例を持ち出すまでもなく、同性カップルおよびその子どもたちは、我が国にも増えていくはずだからだ。
そのとき私たちがすべきなのは、彼らに寄り添い、気持ちを共有することだ。そのためには、ここに書かれていることがきっと役立つ。つまり本書は、私たちの将来にもつながっていると理解する必要があるのだ。
『ルポ 同性カップルの子どもたち
――アメリカ「ゲイビーブーム」を追う』
杉山麻里子 著
岩波書店
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に、「ライフハッカー[日本版]」「Suzie」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、多方面で活躍中。2月26日に新刊『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)を上梓。