監禁生活を送る母子の人生を取り戻す闘い
『ルーム』は外界との接触を断たれた女性の苦闘を描きつつ生きる希望を伝えている
閉ざされた世界 ジョイ(右)は監禁中に息子ジャックを産み、前向きに生きていこうとする ©Element Pictures/Room Productions Inc/Channel Four Television Corporation 2015
突然誘拐され、何年にもわたって外界と遮断した環境に閉じ込められ、犯人に体を思うままにされる──想像することさえためらってしまうような恐ろしい状況だ。
いつ終わるとも知れない監禁下で過ごす時間の長さだけでもつらいのに、生活に必要最低限のものしか与えられないなかで、被害者は心の健康をどうやって維持していくのか。被害者は生き続けるためのどんな理由を見いだすのか。犯人に強姦されて妊娠してしまった場合には、どんな気持ちで子育てに臨むのか──。
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レニー・アブラハムソン監督は最新作『ルーム』で、監禁下で子供を育てる女性の日常を、真正面から見据えて描いている。原作となった小説『部屋』(邦訳・講談社文庫)の著者で、映画の脚本も担当したエマ・ドナヒューは、オーストリアで24年間にわたって実の父親に地下室に監禁され、7人の子供を産んだ女性の実話から物語の着想を得たという。
ここで描かれる犯罪はオーストリアの事件ほどショッキングではないが、同じくらい痛ましい。ジョイ(ブリー・ラーソン)は19歳のときに見知らぬ男(ショーン・ブリジャース)に誘拐され、男の自宅裏庭に建てられた防音の小屋に監禁される。2年ほど精神的にどん底をさまよった後に、ジョイは1人で男の子を出産。この子が前向きに生きていく理由となる。
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ジョイは母子の生活を彩るためにさまざまな日課をつくり、それを通して息子ジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)に読み書きや簡単な算数を教える。歌も歌うし、誕生日ケーキを焼いたりもする。だが2人の生活は「オールド・ニック」と呼ばれる男(つまり誘拐犯)の訪問によってしばしば邪魔される。
原作の小説は、自分の内側の世界と外界の区別がつくようになった年頃のジャックの視点でつづられる。だが映画では同じ手は使えない。そこで撮影監督のダニー・コーエンは、低い視点からのクローズアップを多用して、幼い子供の目に映る世界をうまく描き出した。
3.5メートル四方の薄汚れた狭い部屋も使い古された日用品も、ジャックの視線からは輝くような美しさが感じられる。ナレーションやムードあふれる音楽をあれほどかぶせなければ、観客はもっと作品の世界に引き込まれたかもしれない。