NYタイムズですら蚊帳の外、「パナマ文書」に乗り遅れた米メディア
プロジェクトを率いるICIJのジェラード・ライルがWIREDに語ったところによれば、ICIJはかつてウィキリークスがやったように生データをそのまま公表する予定はない。顧客データには、権力者のような公人だけでなく一般人の極めてプライベートな情報(パスポートの写しなど)も含まれているからだ。ライルは各国のプロジェクト参加記者に対し、「自国の公益に合致する報道」を呼びかけているという。ちなみにICIJはパナマ文書についてあらかじめ予定されている報道を完了した際には各国の手でさらなる調査報道を期待しているといい、今後数週間のうちにプロジェクトに加わる新規メディアをいくつか選ぶ予定だ。すでに各国のメディアから協力依頼が相次いでいるそうだ。
たしかに、パナマ文書については生データをそのまま公開するのではなく、調査報道のプロによる確かな分析・裏付けを経て世に出すというジャーナリスティックな手順が必要だろう。そもそも、タックスヘイブンを使うこと自体は違法行為ではなく、法の抜け穴をついた「節税対策」だ。だが納税を計画的に逃れるという意味で倫理的には極めて怪しい行為のため、関与が疑われるだけでも対外的なイメージに傷がつくことは避けられない。
朝日新聞によれば、パナマ文書には日本国内を住所とする400の人や企業の情報が含まれているというが、関係者にとって最も怖いのはICIJプロジェクトによる報道ではなく、むしろ生データがハッキングされるなどしてそのまま世に出ることかもしれない。そもそも、パナマ文書の流出元である法律事務所モサック・フォンセカはAFPの取材に対し、「国外のサーバーからハッキングを受けた」と語っている。
【参考記事】NYタイムズがウィキリークス連載を「突然中止」は誤報?
2010年にウィキリークスがアメリカの外交公電を暴露した際には、初めは情報提供を受けたニューヨーク・タイムズやガーディアンなど世界5紙・誌が編集を経て報じていたが、翌年にはウィキリークスが全情報を未編集のまま公開することに踏み切った(これに対して5紙・誌は抗議した)。この時点で、すでに未編集データへのアクセス方法が外部に漏れていたことが原因とみられている。そのウィキリークスの報道担当者は、パナマ文書の全文をオンラインで公開すべきだと語った。
いずれにせよ、今後の「パナマ文書」報道についてはプロジェクトに参加したメディアの動きから目が離せない。日本関連では、朝日新聞が特設コーナーを設けており、今後の続報に注目だ。