最新記事

タックスヘイブン

NYタイムズですら蚊帳の外、「パナマ文書」に乗り遅れた米メディア

2016年4月8日(金)16時28分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

 プロジェクトを率いるICIJのジェラード・ライルがWIREDに語ったところによれば、ICIJはかつてウィキリークスがやったように生データをそのまま公表する予定はない。顧客データには、権力者のような公人だけでなく一般人の極めてプライベートな情報(パスポートの写しなど)も含まれているからだ。ライルは各国のプロジェクト参加記者に対し、「自国の公益に合致する報道」を呼びかけているという。ちなみにICIJはパナマ文書についてあらかじめ予定されている報道を完了した際には各国の手でさらなる調査報道を期待しているといい、今後数週間のうちにプロジェクトに加わる新規メディアをいくつか選ぶ予定だ。すでに各国のメディアから協力依頼が相次いでいるそうだ。
 
 たしかに、パナマ文書については生データをそのまま公開するのではなく、調査報道のプロによる確かな分析・裏付けを経て世に出すというジャーナリスティックな手順が必要だろう。そもそも、タックスヘイブンを使うこと自体は違法行為ではなく、法の抜け穴をついた「節税対策」だ。だが納税を計画的に逃れるという意味で倫理的には極めて怪しい行為のため、関与が疑われるだけでも対外的なイメージに傷がつくことは避けられない。

 朝日新聞によれば、パナマ文書には日本国内を住所とする400の人や企業の情報が含まれているというが、関係者にとって最も怖いのはICIJプロジェクトによる報道ではなく、むしろ生データがハッキングされるなどしてそのまま世に出ることかもしれない。そもそも、パナマ文書の流出元である法律事務所モサック・フォンセカはAFPの取材に対し、「国外のサーバーからハッキングを受けた」と語っている。

【参考記事】NYタイムズがウィキリークス連載を「突然中止」は誤報?

 2010年にウィキリークスがアメリカの外交公電を暴露した際には、初めは情報提供を受けたニューヨーク・タイムズやガーディアンなど世界5紙・誌が編集を経て報じていたが、翌年にはウィキリークスが全情報を未編集のまま公開することに踏み切った(これに対して5紙・誌は抗議した)。この時点で、すでに未編集データへのアクセス方法が外部に漏れていたことが原因とみられている。そのウィキリークスの報道担当者は、パナマ文書の全文をオンラインで公開すべきだと語った。

 いずれにせよ、今後の「パナマ文書」報道についてはプロジェクトに参加したメディアの動きから目が離せない。日本関連では、朝日新聞が特設コーナーを設けており、今後の続報に注目だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECBは「良好な位置」、物価動向に警戒は必要=理事

ビジネス

米製造業PMI、11月は51.9に低下 4カ月ぶり

ビジネス

AI関連株高、ITバブル再来とみなさず =ジェファ

ワールド

プーチン氏、米国のウクライナ和平案を受領 「平和実
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体制で世界の海洋秩序を塗り替えられる?
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 7
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中