最新記事

ロシア

プーチンが築く「暴君の劇場」

2016年2月8日(月)17時50分
オーエン・マシューズ

 これまでロシア政府は、「敵」を次々とつくり出すという古典的な手法を実践して、国民の不満が政権に向かうことを防いできた。ロシアが直面している困難をアメリカやウクライナ、そして最近はトルコのせいにしてきたのだ。ロシア科学アカデミー社会学研究所の最近の調査では、国民の4人に3人は、自分たちの経済的苦境の原因が欧米にあると思っている。

【参考記事】トルコ攻撃に見え隠れするロシアの「自分探し」症候群

 もっとも、調査を実施した研究者たちによれば、1年~1年半の間に、そうした集団幻想がはげ落ちて、国民の不満が政府に向かい始める可能性があるという。実際、回答者の60%は、この1年で生活水準が下がったと答えている。「ロシアの敵を打ち負かすために一層の犠牲を払う」ことをいとわない人は、38%にとどまった。

 政府も風向きの変化には気付いているようだ。先月には、大統領や要人の警護を担当してきた連邦警護庁(FSO)の任務を変更し、国内のすべての州で社会不安の芽を早期に発見する役割も担わせた。

 それと合わせて、労働者の不満が爆発しそうな地域を割り出す作業チームも組織した。具体的には、世論調査を行って住民の不満のレベルを調べ、潜在的な社会不安の深刻さに応じて各地域を赤、黄、緑に分類する。そして、リスクが高い地域では、FSOを通じて緊急の経済支援を実施する一方、抗議活動の主導者を逮捕するコワモテの取り締まりもセットで行うという。

シリア政策と同じ作戦

「非公開の世論調査では、政府のやっていることはすべて正解で、プーチンは国民に愛され、支持されているという結果が一貫して出ている」と言うのは、独立系テレビ局「ドーシチ」で編集長を務めたミハイル・ジガル。プーチン政権の内情に関する著書もある人物だ。「だから、政府に対する反乱は起きないと安心している」

 それなら、ロシア政府はなぜ、治安強化の措置をここにきて相次いで打ち出しているのか。ロシア政治の専門家であるニューヨーク大学のマーク・ガレオッティ教授が最近、独立系オンライン雑誌「ロシア!」で指摘したところによれば、政府の真の狙いは「暴君の劇場」をつくり出すことにある。

【参考記事】プーチンは「狂人」か、策士か

「政府が実際よりも強硬で残忍であるかのようなイメージを積極的に生み出し、今後さらに強硬で残忍になり得るというメッセージを熱心に広める」という統治手法だ。ロシアのシリア政策は、少数の軍事力によってロシアの強さを印象付けることを狙っている。同様に、国内でも国民を脅えさせ、政府に盾突く動きを封じようというわけだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 2
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 3
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...その正体は身近な「あの生き物」
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 7
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    「腫れ上がっている」「静脈が浮き...」 プーチンの…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中