プーチンが築く「暴君の劇場」
これまでロシア政府は、「敵」を次々とつくり出すという古典的な手法を実践して、国民の不満が政権に向かうことを防いできた。ロシアが直面している困難をアメリカやウクライナ、そして最近はトルコのせいにしてきたのだ。ロシア科学アカデミー社会学研究所の最近の調査では、国民の4人に3人は、自分たちの経済的苦境の原因が欧米にあると思っている。
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もっとも、調査を実施した研究者たちによれば、1年~1年半の間に、そうした集団幻想がはげ落ちて、国民の不満が政府に向かい始める可能性があるという。実際、回答者の60%は、この1年で生活水準が下がったと答えている。「ロシアの敵を打ち負かすために一層の犠牲を払う」ことをいとわない人は、38%にとどまった。
政府も風向きの変化には気付いているようだ。先月には、大統領や要人の警護を担当してきた連邦警護庁(FSO)の任務を変更し、国内のすべての州で社会不安の芽を早期に発見する役割も担わせた。
それと合わせて、労働者の不満が爆発しそうな地域を割り出す作業チームも組織した。具体的には、世論調査を行って住民の不満のレベルを調べ、潜在的な社会不安の深刻さに応じて各地域を赤、黄、緑に分類する。そして、リスクが高い地域では、FSOを通じて緊急の経済支援を実施する一方、抗議活動の主導者を逮捕するコワモテの取り締まりもセットで行うという。
シリア政策と同じ作戦
「非公開の世論調査では、政府のやっていることはすべて正解で、プーチンは国民に愛され、支持されているという結果が一貫して出ている」と言うのは、独立系テレビ局「ドーシチ」で編集長を務めたミハイル・ジガル。プーチン政権の内情に関する著書もある人物だ。「だから、政府に対する反乱は起きないと安心している」
それなら、ロシア政府はなぜ、治安強化の措置をここにきて相次いで打ち出しているのか。ロシア政治の専門家であるニューヨーク大学のマーク・ガレオッティ教授が最近、独立系オンライン雑誌「ロシア!」で指摘したところによれば、政府の真の狙いは「暴君の劇場」をつくり出すことにある。
「政府が実際よりも強硬で残忍であるかのようなイメージを積極的に生み出し、今後さらに強硬で残忍になり得るというメッセージを熱心に広める」という統治手法だ。ロシアのシリア政策は、少数の軍事力によってロシアの強さを印象付けることを狙っている。同様に、国内でも国民を脅えさせ、政府に盾突く動きを封じようというわけだ。