最新記事

日中関係

中国の党と政府のメディアがSMAP解散騒動を報道する理由

2016年1月22日(金)17時12分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 そのため、2010年に尖閣問題ですっかり悪化してしまった日中関係をなんとか打開しようと、2011年5月に日中韓の3か国首脳会議に出席するため訪日していた温家宝(元)首相は、東日本大震災で被災した宮城県と福島県をそれぞれ視察し、都内のホテルでSMAPと会った。そのとき中国語で「世界に一つの花」を歌ったことは有名だ。これも当時、中央テレビ局CCTVで報道されたが、今は中国政府管轄下の香港の「鳳凰チャンネル」の動画しか見つからないので、興味のある方はクリックして見ていただきたい。

 温家宝元首相は、このとき「9月の北京公演を歓迎する」と言ったのだが、それは尖閣問題などでSMAPの初めての上海公演をキャンセルさせた経緯があったからだ。

 2010年、尖閣問題で中国では激しい反日暴動が起きたが、これは中国政府に不満を持つ底辺層の若者たちが主体となって起こしたものである。言うならば「反政府暴動」に等しい。

 その中国政府が日本で大地震があったからと言って、親日的態度を取ったりなどしたら「親日政府」として底辺層の若者たちに罵倒されるのは明らかだ。しかし、中国の若者にも人気のあるSMAPを「使う」のなら、「親日政府」と罵倒されないだろうという計算が、中国政府にはあったのである。

 そして実際の北京公演では、中国政府系メディアは「中国で最も有名な日本人アーティスト」としてSMAPをほめちぎった。

 このたび中国共産党および中国政府が一斉にSMAP問題を取り上げたのは、過去にこういう経緯があったからだ。中国政府が日中友好への橋梁と認めている「天団」に傷がつくのは困るのだ。「反日政府」と罵倒されないための中国政府の対日強硬策には、実は苦渋が混在していることが、このことからもうかがい知ることができる。

 中国の若者たちの声をご紹介したいが、他の執筆などに追われ、なかなか手が回らない。たいへん申し訳ない。別の機会に譲りたいと思う。

 ただ、ひとことだけでも書いておくと「解散と聞いたときには、あまりのショックで眠れなかった。SMAPは私の青春だ!」「謝罪報道を見たときには、涙があふれてならなかった」という熱狂的なものから、「でもなぁ、もうみんな『おじさん』の齢だよ。そろそろ解散させてあげても、いいんじゃないの?」とか「でも、謝罪会見で、『解散しません』とは言ってないよね? 暗くて、もう私たちに元気をくれた、あのSMAPじゃないみたい」などというのがあった。

 これら若者の声は何百万と書きこまれているので、平等を期して読み込むのにも時間がかかる。

 なお、ここでご紹介した党と政府のウェブサイトに若者のコメントが見つからないのは、若者たちがこのようなウェブサイトを見ないためと、中には書き込みを禁じているケースもあるからである。

[執筆者]
遠藤 誉

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』(新潮新書)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドネシア中銀、3会合連続金利据え置き ルピア支

ワールド

戦略的互恵関係を推進、国会発言は粘り強く説明=日中

ビジネス

アングル:米株式取引24時間化、ウォール街では期待

ビジネス

英CPI、11月+3.2%に鈍化 市場は18日の利
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中