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2つのアイドル謝罪、「社会の縮図」と「欺圧の現実」

2016年1月29日(金)19時53分
高口康太(ジャーナリスト、翻訳家)

「弱者」というキーワードは情報を拡散させ、人々を動かすためのツールとして利用されている。例えば中国では政府の不正を訴える際に、子どもや妊婦、老人に危害が加えられたというエピソードが付け加えられる。ウソであることも多いのだが、「弱者が虐げられる構図」がいかに人々の感情を突き動かすものか、よく知られているがゆえと言える。ツウィの事件もまた、人々の感情を大きく揺さぶり選挙に影響を与えることが分かった上で、広く拡散されたことは間違いない。

 人々の感情を突き動かす道徳観というツールは、選挙結果に影響を及ぼしたり、大規模なデモを生み出したりと強力な力を持つ。その力を否定することはできないが、理性ではなく感情を動力としているだけに危うさを感じるのも事実だ。

 ましてや今回のツウィ事件ではもう一方の側、中国ネットユーザーも近代が生み出した感情のツールであるナショナリズムによって突き動かされていた。中国と台湾、双方の人々がそれぞれ感情のツールによって対立する局面は、政府のコントロールを超えたリスクをはらんでいる。

[筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。

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