最新記事

難民危機

イギリスで難民の子供900人が行方不明に

保護者とはぐれた子供が、さらわれたり自ら逃げ出したりして危険にさらされている

2015年12月8日(火)18時00分
ナタリー・イルスレー

無防備 借金を返すために違法に働くなど、子供にも悲惨な事情がある(写真は2009年、ルーマニア難民) Cathal McNaughton-REUTERS

 亡命を希望してイギリスに到着した子どもたち数百人が、この1年で行方不明になっている──英オブザーバー紙が先週末に報じた。

 同紙がイングランドとウェールズの132の自治体に情報公開請求を行って得た回答によると、今年1~9月にかけて、少なくとも340人の子供たちが姿を消し、過去5年間では、900人以上の亡命希望の子供たちが行方不明になっているという。

 英国赤十字社によると、推定12万6000人の難民が現在、イギリスで生活している。2014年には3万1400人の亡命申請を受け付けたが、そのうち1945人はイギリスに到着する前に親からはぐれた子供たち。最も多かったのは、アルバニア、エリトリア、アフガニスタン、シリア、ベトナム、そしてイランから到着した子供たちだ。

 自治体は、亡命希望の子供たちが、人身売買業者によって里親の家や一時保護施設から連れ去られ、売春や強制労働のために売買されているのではないか、あるいはホームレス生活や貧困に苦しんでいるのではないかと懸念している。

 同じくオブザーバー紙によれば、行方不明になっている子供たちにはベトナム人が多く、人身売買されているリスクも最も高い。過去9カ月間で少なくとも48人のベトナムの子供たちが、イングランドとウェールズから姿を消している。行方不明になった子供たちの情報提供サイト「Missing Kids UK」のデータベースも同様の数字を示している。ウェブサイトで紹介されている171人の子供・若者のうち、48人がベトナム人の名前を持っており、その割合はウェブサイト全体の4分の1以上を占める。

 なぜベトナム人の子供は行方不明になりやすいのか。BBCは2013年放送の番組でその原因を追った。それによれば、ベトナムの子供たちは多額の借金を背負っており、それを返済するためにあえて里親の元や養護施設を脱け出して「捕獲者」を見つけているケースが多いのだという。

イギリスで奴隷になる子供たち

 アルバニアの子供たちもリスクが高い。児童チャリティー団体「Barnardo's」(バーナードズ)は10月17日、イギリスで奴隷として強制労働させられているアルバニアの子供の数が増加していると発表した。同団体のジェイヴド・カーンCEOによれば、子供の一部は建設現場を中心に強制労働させられているが、ほとんどは売春などの犯罪行為に利用されているという。

 カーンは、アルバニアの子供たちの何人が奴隷として働かされているのかを明らかにしなかったが、今年の第3四半期に亡命を申請したアルバニア人は382人で、2014年の同時期より7パーセント増えている。

 イギリスのチャリティー団体は、保護者のいない未成年者たちの身の安全を懸念しており、自治体が子供たちに自分の権利について教える取り組みを強化すべきだと考えている。英国赤十字社の難民サービス開発マネージャー、ヒューゴ・トリストラムは本誌の取材に対する回答でこう述べた。「ここ数カ月、保護者のいない子供の亡命希望者が急増している」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中