台湾ではもう「反中か親中か」は意味がない
その韓国といえばTPP(環太平洋パートナーシップ協定)にこそ入っていないものの、米韓FTA(自由貿易協定)、EU韓国FTA、中韓FTAと凄まじい勢いで二国間FTAを結んでいる。ならば台湾もFTAの鬼となった韓国を追撃するべきと言いたいところだが、主要国の大半は中国と国交を結んでおり台湾とは国交を持たない。FTAを結ぶことは難しいし、TPPのような多国間の枠組みに参加することはきわめて困難だ。
そうした中で台湾が結んだ貴重な枠組みが2012年の米台貿易投資枠組み協定(TIFA)だ。苦しい外交環境に置かれた台湾の、貴重な勝利となれば話はわかりやすいのだが、実際には馬英九政権にとっては大打撃を与えた。協定によってラクトパミンという薬剤を使った牛肉の輸入が解禁され、食品安全を売り渡した売国奴として馬英九政権は激しく突き上げられることになる。
なお、食品安全問題はその後もアキレス腱となっており、中国本土の下水油(残飯から抽出した油、繰り返し使用した劣悪な油を指す言葉)が台湾に流入していた問題などが発覚し、政権にとっての打撃となった。
今や日本の国際ニュースにおいて、中国は絶大な存在感を持っている。それだけに台湾、あるいは東南アジアなどのニュースにおいても、中国との関連で説明されることが多い。しかし実際はというと、中国の存在感が強いとはいえ、現地の人々にとっての最大の関心事は経済や安全といった身近な問題だ。
台湾も例外ではない。中国との関係を断つべきという過激な人も一部ではいるが、中国成長の恩恵の分け前をいただけるならばいただきたいと考える人のほうが多い。おそらくポスト馬英九を担うことになる民進党の蔡英文氏は、「台湾独立」というかつてからの党是を信奉するコアな支持者にも配慮する一方で、中国経済の恩恵を預かりつつ景気改善を果たして欲しいという圧倒的多数の声に向き合うことになる。
そもそも中国接近路線一辺倒だった馬英九ですら台湾経済の回復はなしえなかったのであり、中国頼みには限界がある。果たして新政権にはどのような選択肢が残されているのだろうか。あるいは台湾にとっての政治課題は中国ではないのかもしれない。いかに低成長と向き合うか。この課題を考えた時、20年以上前から低成長の先輩として生きている日本は格好の相談相手ではないだろうか。
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[執筆者]
高口康太
ジャーナリスト、翻訳家。1976年生まれ。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『なぜ、習近平は激怒したのか――人気漫画家が亡命した理由』(祥伝社)。