最新記事

東アジア

日中韓関係と日本の課題

2015年11月6日(金)17時30分
遠藤 誉(東京福祉大学国際交流センター長)

 5. 日中間では「戦略的互恵関係」が確認されているが、この「戦略的」は、「とりあえず、歴史問題や領土問題は脇に置いておいて、経済文化交流を友好的に進めましょう」というものだが、中国は「脇に置いた」歴史問題を日本に直接突きつけるのではなく、(それもするが、)先ずは国際社会の共有認識とすることによって、国際世論における思想的な対日包囲網を形成することに方針を転換した。
習近平国家主席の夫人・彭麗媛氏は、ユネスコの「少女・女性教育促進特使」称号をボコバ事務局長から授与されている。
ボコバ事務局長は習近平夫妻と「大の仲良し」なのだ。彭麗媛夫人を特使に推薦したのも、このボコバ事務局長だ。思想的戦闘準備はすでに整っている。

 6. 中国のこの戦略性に対して、日本にはほぼ「戦略がない」と言わざるを得ない状況が続いている。92年の中国の領海法に対して、日本はその違法性を指摘すべきなのに、遺憾の意を表すだけで、それを是正する手段を講じて来なかった。そのことは11月4日付の本コラム「ASEAN国防拡大会議、米中の思惑――国連海洋法条約に加盟していないアメリカの欠陥」で論じた。日本は中国にもアメリカにも、堂々と上を向いて「ものを言う」姿勢を貫かなければならないだろう。また日本は、「気がつくと、中国にやられていた」という情況を生まないために、思想的な論理武装を強化しなければならない。

 不戦の誓いを大前提として、日中戦争における中国共産党が果たした役回りを直視し、共産党政権がいかにして誕生したのかという真相を、日本の問題として冷静に客観的に位置づけて、反省すべきは反省した上で、堂々と独立した一国家としての尊厳を守っていかなければならないのではないだろうか。それと同時並行した互恵関係でなければ、「中国による良いとこ取り」に終わってしまう。

 以上、日本政府に注意を喚起したい。

[執筆者]
遠藤 誉

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など著書多数。近著に『毛沢東 日本軍と共謀した男』

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

マネーストックM3、11月は1.2%増 貸出増で7

ビジネス

マグナム・アイスの甘くない上場、時価総額は予想下回

ビジネス

ボーイング、スピリット・エアロ買収を完了 供給網大

ワールド

米NJ連邦地検トップが辞任、トランプ氏の元弁護士
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    米、ウクライナ支援から「撤退の可能性」──トランプ…
  • 10
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中