最新記事

科学

「決断疲れ」が生産性を奪う

仕事の段取りから夕食メニューまで決断続きは意思決定の力を弱めてしまう

2014年11月7日(金)15時47分
ジェーン・C・フー(科学ライター)

やる気が出ないのは 自制や選択続きて疲れた心は、安易な選択をしやすくなる John Cowie/Getty Images

 新しい街で働き始めた初日。私は気付くと、新しいマンションでカーペットにうつ伏せに寝転んでいた。ソファを買わなくちゃ。あの原稿を仕上げなくちゃ。犬の散歩にも行かなくちゃならない──。

 でも家から職場までどの経路で行くかを決め、医療保険のプランを選び、10個以上の新しいパスワードを設定した後では、私はまったく使い物にならない。夫に聞かれた夕食メニューも、何でもよかった。

 こんな私の状態を科学的に説明すると「決断疲れ」だそうだ。

 読んで字のとおり、次々と何かを決断をしていくと、人は疲れてうんざりしてしまうことがある。仕事帰りに食料品を買うことを考えてみよう。7ドルで有機農法のベリーを買うか、4ドルで普通のベリーを買うか? パスタの種類は? ジュースのブランドは? あなたが私みたいな人だったら、2、3の決断をしたらいらいらし始めるだろう。

 選択肢が無限にあれば、自由度は高くなると思える。しかし意思決定をめぐる研究は、その逆を示唆している。95年に行われた有名な研究がある。コロンビア大学の研究者らが土曜日の午後、高級スーパーマーケット内に24種類のジャムをそろえた試食コーナーを設置。翌週の土曜日には6種類のジャムで同じことをした。

 そこで分かったのは、人は選択肢が多いのを好むらしいということ。6種類のジャムより、24種類のジャムをそろえた日のほうが多くの客を集めた。ただし人々は24種類のジャムのうち1つか2つしか試食せず、それは6種類でも同じだった。

 しかも24種類のジャムを前にした客のうち、実際に買った人の割合はわずか3%。彼らは、研究者が「選択マヒ」と呼ぶ状態に陥ったのだ。それが6種類のジャムでは、30%の客が購入した。ここから「選択肢の過多」という理論が生まれた。

 意思決定だけでなく、何かを「やらないこと」も人を消耗させる可能性がある。例えば休憩室にドーナツの入った箱があり、あなたは食べるのを我慢している。それは1日を通して、潜在意識下であなたの気を散らす。

 ある研究者グループが表現したように「筋肉を使えば疲れるように、自制心を働かせれば、その後の自制心に短期的な機能障害が起きる」。研究者たちはこれを「自我消耗」と呼んだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米・イラン、ここ数日で直接対話再開か アラグチ外相

ビジネス

再送米国株式市場=急反発、AI関連銘柄が高い 原油

ワールド

IEA、備蓄追加放出も ホルムズ海峡再開が鍵=事務

ワールド

IEA、備蓄追加放出も ホルムズ海峡再開が鍵=事務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったのか?
  • 3
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在の価値でどれくらい? 誰が何のために埋めた?
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 6
    「筋肉はモッツァレラと同じ」...なぜウォーミングア…
  • 7
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 8
    幼い子供たちの「おぞましい変化」を克明に記録...「…
  • 9
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 9
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中