イラク危機に中国が沈黙を守り続ける理由
「大国扱い」を求める一方で国際社会に貢献する気はない矛盾
関心は経済だけ? 中国はイラクの石油業界に多大な投資をしているが BigStock
混迷するイラク情勢をめぐって、驚くほど影の薄い国がある。イラクの石油開発に巨額の投資をしている中国だ。
中国は03年のフセイン政権崩壊やその後のイラク安定化にまったく貢献しなかったにもかかわらず、新生イラクの原油生産の恩恵を最も享受してきた国とされる。国有企業の中国石油天然気総公司だけでイラクへの投資は40億ドルに上り、今やイラク産原油の最大の輸出先は中国だ。
なのに今回のイラク危機が始まって以来、中国政府は沈黙を守り続けている。
理由の1つは、原油の調達に深刻な障害が生じていないことだろう。イラクの油田の大半は南部のシーア派支配地域にあり、バクダッド以北の戦闘地域で中国が出資している油田は1カ所のみだ。
さらに中国は日頃から、欧米諸国に比べて国際情勢の変化への対応が遅れがちだ。ウクライナ危機でも対応が遅かったが、これは共産党指導部の協議に時間がかかったからだろう。
しかし中国の沈黙は、もっと大きな流れの表れだとも思われる。それは中国が「大国扱い」を世界に要求しながらも、大国らしく振る舞う気がないということ。彼らにしてみれば、アメリカや中東諸国にイラクの安定化に尽力してもらい、自分たちはその恩恵を貪るほうが都合がいいわけだ。
これは恥ずべき姿勢だ。大国の名に見合った言動をしなければ、誰も中国を大国扱いしない。その結果、中国が国際社会に不当な扱いをされたと不満を募らせ、緊張が高まる危険もある。
米中関係にも悪影響が
しかも中国は本来、イラク危機をめぐって指導的な役割を果たせる立場にある。石油業界への最大の投資国として、中国はイラク政府に一定の影響力を有している。シーア派率いるイラク政府の後ろ盾であるイランとも、強力な経済関係がある。
他方、イラク政府に反旗を翻したスンニ派勢力を支える中東のスンニ派国家にとっても、中国への原油輸出は命綱だ。つまり中国は、対立するシーア派とスンニ派の間を取り持てる絶妙な立場にあるわけだ。