ベルギー「子供の安楽死」合法化のジレンマ
既に秘密裏には行われている
だが法案を支持する人々に言わせれば、こうした主張は時代遅れだ。ブリュッセル自由大学のペーテル・デコニンク名誉教授(小児外科)は、子供の安楽死をめぐるタブーを打ち破る時期が来たと語る。
「現代の子供は50年前の子供と違って、精神的に成熟している」と彼は言う。「終末期の病気の子供に分かりやすく、少しずつ話をするのは医師の義務だ。最初から何もかも話すことはないにしても」
支持派に言わせれば、ベルギー国内では既に子供の安楽死は実施されている。「実際、小児科医は同情の念に突き動かされて、保護者の同意を得た上でかなりの数の子供たちの命に終止符を打っている」と、緩和ケアに詳しいブリュッセル自由大学医学部のヤン・ベルンヘイム教授は言う。
「これまでは訴追される恐れがあったため、秘密裏にやらざるを得なかった」とベルンヘイムは言う。「今後は合法的にできるようになるだろう」
もちろん、本人が望むだけでは安楽死は実現しない。法案では、子供自身に十分な判断能力があるかどうかを、心理学者と医師が判断することが要件となっている。また医師は子供に対し、苦痛を緩和するための医療行為にどんな選択肢があるかを伝えるとともに、本人の希望について対話を続けることが義務付けられている。
それでも「安楽死」という言葉を用いて話をすることは、重病の子供たちに死を選ぶよう圧力をかけることにつながりかねない。
「緩和ケアが功を奏しているのに、子供たちの命を堂々と奪うことなどあってはならないと思う」と、欧州生命倫理研究所(ブリュッセル)のカリーヌ・ブロシエは言う。「ベルギーは世界の安楽死の実習室になろうとしている。安楽死はワッフルと同じ、ベルギーの代名詞になるだろう」
ブロシエによれば、子供の安楽死容認は倫理的に危うい領域への第一歩になりかねない。「次に来るのは認知症の人々の安楽死だろうか。その次は障害のある人々の安楽死か」
ブロシエは言う。「今でさえ認知症の患者に対しては、蘇生措置や抗生物質の投与など、苦しみを長引かせるだけで無意味と思われる医療行為を控えることがほとんどだ。ほかの人であれば与えられるはずの救命措置に、彼らは値しないと考えられている」
誰が生きるに値するかを判断しようなど、神の領域に対する侵犯と言ってもいい。だがナチス・ドイツでは、医師たちの手で1万人以上の障害や重い病のある子供たちの命が絶たれた。