最新記事

生命倫理

ベルギー「子供の安楽死」合法化のジレンマ

2014年2月17日(月)12時20分
エリーサーベト・ブラウ

どちらを選択しても苦しむ親

 当時、命を奪われたドイツの子供たちは死にたいかどうかなど尋ねてもらえなかった。だがベルギーで今回の法律が成立したら、医師は「安楽死してはどうか」と子供たちに提案できるようになる。

「もちろん難しい対話になる」とファンデルウェルフテンボスは言う。「親たちがよく言うのは、『私たちに何ができるだろう』ということだ。これから私たち医師はさまざまな医療行為だけでなく、『死を選ぶという選択肢もあります』と言えるようになる」

 新法をめぐる議論はベルギー社会やそのモラル、義務についての考え方を映す鏡になるだろう。「子供の安楽死は、ベルギーに暮らす私たちの生活にとってどんな意味を持つのか」とブロシエは問う。「末期患者である子供たちの苦痛を和らげるには、緩和ケアに対する財政支援の拡充といった、さらなる連帯こそが必要なのに」

 忘れてはならないのが子供の親たちの立場だ。「『本当に死にたい』と言われれば、90%の親はそうさせるだろう」とファンデルウェルフテンボスは言う。親にとって子供が苦しむ姿を見るのはつらいことだからだ。
そうは言っても、彼らが非常に苦しい選択を迫られることに変わりはない。医師の中からは、そんな耐え難い立場に置くくらいなら、子供の安楽死を決定するプロセスから排除するほうが親のためではないかとの意見も出ている。

 前出のプティ夫妻は、もし自分たちの子供が病気で終末期にあり、死にたいと言い出したらどうなるか思い描いてみようとしている。「できるだけ多くの人の意見を聞くつもりだ」と夫のセバスティアンは言う。「私は医療関係者ではないから、多数派の意見に従おうと思う」

 子供の生死に関する問題だというのに、多数派の意見に流されようとする──ベルギーは寒々しい新たな時代へと突入しようとしているようだ。

[2014年1月21日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米9月CPIは前年比3.0%上昇、利下げ観測継続 

ワールド

カナダ首相、米と貿易交渉再開の用意 問題広告は週明

ワールド

トランプ大統領、中南米に空母派遣へ 軍事プレゼンス

ワールド

米朝首脳会談の実現呼びかけ、韓国統一相、関係改善期
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...装いの「ある点」めぐってネット騒然
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月29日、ハーバード大教授「休暇はXデーの前に」
  • 4
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 5
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 6
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 9
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中