ベルギー「子供の安楽死」合法化のジレンマ
国民の74%が新法を支持
ほとんどの動物がそうであるように、人間にも子供たちを守ろうとする本能がある。20世紀のドイツの神学者ディートリヒ・ボンヘッファーの言葉を借りれば、「社会の道徳性の高さは、子供たちをどう扱うかによって判断できる」。
では、医師が子供の死を手助けするのを許そうとしているベルギー社会は、一線を越えてしまったのか?
それとも、子供たちの苦しみに終止符を打てるようにするという意味で、世界で最も子供に優しい社会になろうとしているのか?
「もちろん私自身、法案を支持すると決めるまでにはずいぶん悩んだ。上院議員は誰もがそうだった」と、与党・社会党のフィリップ・マウー上院議員団長は言う。「しかし、子供たちの苦痛を和らげる手だてがないケースもある。その点が最大の決め手になった」
子供の安楽死を認めるべきかどうかは、ベルギー社会を二分した論争になっている。それも旧来の政治的イデオロギーではなく、個人の道徳観によって意見が分かれている。
「どう考えていいか分からない」と、東部の都市リエージュで映画関連の仕事に就いているセバスティアン・プティ(34)は言う。「子供たちの命を奪うのは間違っていると思う半面、苦しんでいる子供たちがいることもよく分かる」
作業療法士をしている妻マリー(28)は、成人の安楽死法がうまく機能していると考えており、子供の安楽死を合法化することにも問題はないという意見だ。ラ・リブレ紙の世論調査によれば、74%の人が新しい法律を支持している。
しかしカトリック教会、イスラム教、ユダヤ教などの宗教団体や、多くの医師、看護師は強く反対している。「苦痛や終末期の不安は薬物によって必ず抑えられる」と、レーベン大学病院の腫瘍専門医ブノワ・ビューゼリンクは主張する。
「それで十分でなければ、苦痛緩和のための薬剤を与えて深い眠りに就かせることもできる。これでもう苦しむことはなくなり、たいていは数日のうちに息を引き取る。その間、家族は子供と一緒の時間を過ごし、別れのプロセスに入れる」と、ビューゼリンクは言う。「死とは本来、自然なプロセス。できる限り、それを尊重すべきだ」