中国からガイジンをつまみ出せ!?
中国人の間に根強い外国人差別が、経済発展で自信をつけたことで再燃?グローバル化に逆らう「排斥ムード」の真相は
「クズ外人」? 中国を訪れる外国人への風当たりは強まるばかり(写真は上海のバー) Carlos Barria-Reuters
京市東部の三里屯地区は、世界に開かれた現代中国のイメージそのものだ。大胆なデザインのガラス張りのビルには、一流ブランド店がずらり。広場には中国のおしゃれな若者や外国人居住者や旅行者がひしめく。外国人は、学生から身なりのいい弁護士や外交官らしき人々まで、国籍も年齢もさまざま──中国政府が街角に掲げる公式スローガンの「包容」が実現されたかに思える光景だ。
ただし別の顔もある。三里屯の裏通りには、英語で「セックス・ショップ」と書いた看板を掲げる店が現れている。ナイトクラブは若い美人の写真を店先に飾って客を誘う。
地元住民はここ何年も、外国人に人気のバーやクラブでの騒音やトラブルに悩まされている。最近も、北京在住の外国人の恥ずべき行為が問題になった。
5月、女性をレイプしようとしたイギリス人の酔っぱらいの映像がネットに流出。男は通り掛かった中国人たちに殴り倒された。同じ週、北京交響楽団のロシア人チェロ奏者が列車で前席に足をのせ、それに苦情を言った中国人女性を侮辱する映像も投稿された。チェロ奏者は謝罪したが、楽団は彼を解雇した。
北京市公安局は国民の怒りを受けて、3カ月にわたって外国人の不法滞在・不法就労の摘発キャンペーンを行うと発表。不審な外国人を通報するホットラインも開設された。上海をはじめとするほかの都市も、外国人の監視強化に踏み切った。
北京に暮らす外国人は少なからず動揺している。国営テレビ局の中国中央電視台(CCTV)英語チャンネルのキャスター、楊鋭(ヤン・ロイ)が中国版ツイッター新浪微博(シンランウェイボー)にある意見を投稿したことで、懸念はさらに深まった。
楊は異文化間の理解の促進をうたうトーク番組『ダイアローグ』の司会者。しかし彼は前述の2つの事件を例に挙げて、「クズ外人」を追い出せとツイートしたのだ。
楊はさらに、中国人女性と同棲しながら国家の機密を盗もうとする外国人「スパイ」がいると警告。5月に中東の衛星テレビ局アルジャジーラの記者メリッサ・チャンが国外退去処分になったことを喜んだ。
アヘン戦争など屈辱の歴史に敏感
この発言は物議を醸したため、楊は事態の沈静化に乗り出した。中国には善良な外国人もたくさんいると思うと強調。チャンを「あばずれ」と言ったと伝えられたがそれは間違いで、「口うるさい女」のニュアンスを込めていたのだと説明した。
しかし政府寄りの環球時報紙英語版は、彼のツイートを「行き過ぎ」で「誤解を呼んだ」と批判した上で、「いくつかの欧米諸国で見られるような外国人排斥運動は中国では起こらない」と言い切った。
一方、政府系の英字日刊紙チャイナ・デイリーはコラムで、楊の主張をアヘン戦争など外国による中国の屈辱の歴史に絡めて取り上げた。秋に指導部の交代を控えた中国は社会不安に敏感になっている。そのため今後数カ月は愛国主義的ムードが強まるという意見がある。
アルジャジーラのチャンの国外退去処分や、政府の好まない記事を書くと追い出すぞと外国人記者が脅される例は、そうした社会の空気の変化を示している。外国人記者の国外追放はこの約10年で初めてのことだった。
もちろん、中国で外国人排斥ムードが高まっているという説を否定する識者もいる。清華大学(北京)のダニエル・ベル教授(政治哲学)に言わせれば、楊の発言は中国社会を代表するものではなく、中国は昔から外国人を受け入れてきた。
経済力が強くなったおかげで「アメリカと競って外国の才能を導入する」大きな機会が生まれたと考える人もいる、とベルは指摘する。かつて繁栄を誇った唐王朝が積極的に外国人を役職に登用したのと同じだ。