最新記事

社会

中国からガイジンをつまみ出せ!?

中国人の間に根強い外国人差別が、経済発展で自信をつけたことで再燃?グローバル化に逆らう「排斥ムード」の真相は

2012年9月20日(木)15時47分
ダンカン・ヒューイット(上海)

「クズ外人」? 中国を訪れる外国人への風当たりは強まるばかり(写真は上海のバー) Carlos Barria-Reuters

 京市東部の三里屯地区は、世界に開かれた現代中国のイメージそのものだ。大胆なデザインのガラス張りのビルには、一流ブランド店がずらり。広場には中国のおしゃれな若者や外国人居住者や旅行者がひしめく。外国人は、学生から身なりのいい弁護士や外交官らしき人々まで、国籍も年齢もさまざま──中国政府が街角に掲げる公式スローガンの「包容」が実現されたかに思える光景だ。

 ただし別の顔もある。三里屯の裏通りには、英語で「セックス・ショップ」と書いた看板を掲げる店が現れている。ナイトクラブは若い美人の写真を店先に飾って客を誘う。

 地元住民はここ何年も、外国人に人気のバーやクラブでの騒音やトラブルに悩まされている。最近も、北京在住の外国人の恥ずべき行為が問題になった。

 5月、女性をレイプしようとしたイギリス人の酔っぱらいの映像がネットに流出。男は通り掛かった中国人たちに殴り倒された。同じ週、北京交響楽団のロシア人チェロ奏者が列車で前席に足をのせ、それに苦情を言った中国人女性を侮辱する映像も投稿された。チェロ奏者は謝罪したが、楽団は彼を解雇した。

 北京市公安局は国民の怒りを受けて、3カ月にわたって外国人の不法滞在・不法就労の摘発キャンペーンを行うと発表。不審な外国人を通報するホットラインも開設された。上海をはじめとするほかの都市も、外国人の監視強化に踏み切った。

 北京に暮らす外国人は少なからず動揺している。国営テレビ局の中国中央電視台(CCTV)英語チャンネルのキャスター、楊鋭(ヤン・ロイ)が中国版ツイッター新浪微博(シンランウェイボー)にある意見を投稿したことで、懸念はさらに深まった。
 
 楊は異文化間の理解の促進をうたうトーク番組『ダイアローグ』の司会者。しかし彼は前述の2つの事件を例に挙げて、「クズ外人」を追い出せとツイートしたのだ。

 楊はさらに、中国人女性と同棲しながら国家の機密を盗もうとする外国人「スパイ」がいると警告。5月に中東の衛星テレビ局アルジャジーラの記者メリッサ・チャンが国外退去処分になったことを喜んだ。

アヘン戦争など屈辱の歴史に敏感

 この発言は物議を醸したため、楊は事態の沈静化に乗り出した。中国には善良な外国人もたくさんいると思うと強調。チャンを「あばずれ」と言ったと伝えられたがそれは間違いで、「口うるさい女」のニュアンスを込めていたのだと説明した。

 しかし政府寄りの環球時報紙英語版は、彼のツイートを「行き過ぎ」で「誤解を呼んだ」と批判した上で、「いくつかの欧米諸国で見られるような外国人排斥運動は中国では起こらない」と言い切った。

 一方、政府系の英字日刊紙チャイナ・デイリーはコラムで、楊の主張をアヘン戦争など外国による中国の屈辱の歴史に絡めて取り上げた。秋に指導部の交代を控えた中国は社会不安に敏感になっている。そのため今後数カ月は愛国主義的ムードが強まるという意見がある。

 アルジャジーラのチャンの国外退去処分や、政府の好まない記事を書くと追い出すぞと外国人記者が脅される例は、そうした社会の空気の変化を示している。外国人記者の国外追放はこの約10年で初めてのことだった。

 もちろん、中国で外国人排斥ムードが高まっているという説を否定する識者もいる。清華大学(北京)のダニエル・ベル教授(政治哲学)に言わせれば、楊の発言は中国社会を代表するものではなく、中国は昔から外国人を受け入れてきた。

 経済力が強くなったおかげで「アメリカと競って外国の才能を導入する」大きな機会が生まれたと考える人もいる、とベルは指摘する。かつて繁栄を誇った唐王朝が積極的に外国人を役職に登用したのと同じだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米エネ業界、冬の嵐で週末に日量200万バレルの石油

ワールド

AI投資は今後も拡大、経済再構築へ=ブリッジウォー

ワールド

米ベーカー・ヒューズ、ベネズエラに「相当な収益機会

ワールド

米エヌビディア、高速で安価な天気予報向けAIモデル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 5
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 6
    「20代は5.6万円のオートロック、今は木造3.95万円」…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    中国、軍高官2人を重大な規律違反などで調査...人民…
  • 9
    私たちの体は「食べたもの」でできている...誰もが必…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 3
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 4
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 5
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 10
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中