最新記事
日本社会悲劇を増幅させた同質社会と官僚体質【後編】
原発事故へのお役所対応を生んだ官僚システムと、従順すぎる世論にメスを入れるチャンスだ
遠い国民感覚 官僚機構と規制産業の闇に光を当てる監視機関を Reuters
<前編はこちら>
ウォールストリート・ジャーナル紙は元東電社員で現在は内閣府原子力委員会の委員を務める尾本彰の話として、東電は地震の翌日に海水注入で原子炉を冷やすことを考えたが、海水を使うと原子炉が永久に使えなくなり資産価値が損なわれるため躊躇したと報じている。結局、原子炉建屋が最初の爆発を起こし菅直人首相から命じられるまで、海水注入は行われなかった。
ある政府関係者は言う。「この事故は60%は人災だ。東電は初動対応に失敗した。10円玉を拾おうとして100円玉を落としたようなものだ」
福島第一原発からわずか80キロの場所にいた自衛隊も、地震後5日目まで事故対策に本格的に参加しなかった。東電側から要請がなかったからだという。実際ある時点では、いったいどういうつもりかと菅が東電に詰め寄る場面もあったという。
日本政府、とりわけ強力な省庁やその規制化にある「半官半民」企業の価値観ややり口、縄張り意識や態度に西側の日本通は慣れっこで、今さらこの程度の報道には驚かない。
外圧もおなじみだ。日本政府はしばしば、アメリカ政府など外国からの圧力がなければ政策や手続きを変えられない。80年代、私が日米貿易交渉に参加したとき、日本政府関係者がよく私のところにきて、政治家や官僚の反対が強いから外圧をかけて欲しいと頼んでいったものだ。
英雄的国民の顔の裏にあるもの
今回、日本政府と東京電力が原発事故の実態がそれまでの発表より深刻だと認めたのも、アメリカと核管理機関の専門家が疑義を唱えたからだ。
つまり日本には、英雄的な国民と、内紛や失策続きの政治家・官僚という両方の顔がある。
その日本が今直面する大きな課題は、この危機をテコにして、日本の政治と官僚機構に革命的な変化をもたらし、政府と規制産業の透明性を最大限に担保する強力な監視機関を作れるかどうかだ。
そしてもう一つの問題は、同質的な日本社会の構成をどう変えていくかだ。日本は同質性を維持することで社会の調和を守ることを強調し、実質的に移民の受け入れを拒否してきた。だが、高齢化と人口減少に直面する今、移民の受け入れなしには日本は長期的に絶滅の道を歩むことになるだろう。
だとすれば次の課題は、日本社会の調和と移民をどう両立させるかだ。日本の未来は、これらの問いに対する答えにかかっている。
Reprinted with permission from The Clyde Prestowitz blog, 22/03/2011. © 2011 by The Washington Post Company.