中国毒食品の深すぎる闇
「中央政府の目が届くところほど法律は厳格に適用されているが、地方にいけばまったく機能していないところもある」と、中国の食品安全体制に詳しい農林水産政策研究所の河原昌一郎上席主任研究官は言う。国土が広い中国では、たとえば農薬に関して全国一律の基準を設けることは不可能に近い。害虫や土壌の質が地域によってかなり違うからだ。
しかも法律がすべての階層に適用されているとはかぎらない。「政府が経営に関与している場合が多く、違反があってもうやむやにされてしまうことがある」と、河原は指摘する。
日本は中国から医薬品の原料を輸入しているが、厚生労働省医薬食品局によれば、有害な成分を含有する商品が流通することは「ほぼありえない」という。他の先進国と同様、原料から製造工程まで徹底した品質管理が製薬会社に義務づけられているためだ。
危険があるとすれば、数量に制限があるものの原則的に禁止されていない個人輸入の商品だ。安全性が確認されていない未承認の医薬品成分が入っているのに「健康食品」として販売され、被害が報告される例は後を絶たない。問題となった中国製やせ薬にもN-ニトロソ-フェンフルラミンなどの未承認の成分が含まれていた。
食品については、中国産冷凍ホウレンソウの残留農薬問題などを受けて、06年5月に「ポジティブリスト制度」が導入された。それまで基準値が定められていなかった農薬にも暫定基準値が設けられ、違反した場合は販売が禁止されるようになった。
この制度を受けて、中国では対日輸出のために、食品会社や現地の農家が生産管理や農薬管理を行い、民間検査機関の検査を受けることが増えたという。
アメリカではリスクに基づいた輸入食品検査を行っている。たとえば特定の業者から輸入した食品に汚染歴がある場合、FDAがその食品の輸入に対して警告を出す。
ただ、こうした対策が安全を完全に保証してくれるわけではない。アメリカでは輸入急増と検査官不足が深刻な問題になっている。「食品安全対策に必要な資源が慢性的に足りない」と消費者団体フード&ウオーター・ウオッチのウェノナー・ホーター理事は言う。
日本にも同様の問題がある。残留農薬や添加物、細菌などを検査する全国の食品検疫官の数は300人ほど。検査される輸入食品の数は、保健所や民間機関による検査を含めても、輸入届出件数全体の1割にすぎない。これは「絶対的に少ない」と、ある自治体の食品衛生監視員は言う。「熱量ベースで(食料の)6割を輸入に頼る日本で、国民の安全が確保されているとはとてもいいがたい」
フグが混入してもチェックできない?
また検査はサンプルを抜き取って行われており、残りの食品は鮮度を保つために市場に流通する。検査終了まで全食品を検疫所にとめ置くことはない。アメリカでも事情は似ており、FDAのデービッド・アキソン食品安全副理事によれば、「問題のある」食品だけが精査の対象になる。
このため、危ない輸入食品が検査されないまま消費者の手に渡る可能性は常にある。昨年7月、千葉県の水産業者が上海から輸入した養殖の生きウナギから、厚生労働省が定めた基準値の2倍の量の有機塩素系殺虫剤エンドスルファンが検出された。大量に摂取すると頭痛や神経障害が起き、死にいたることもある薬品だ。那覇青果物卸商事業協同組合が昨年8月に福建省から輸入した生シイタケには、フェンプロパトリンという農薬が基準値の3倍残留していた。