最新記事

米外交

アメリカはもう台湾を守れない

米政府は台湾への武器輸出を表明したが、台湾に戦略的価値はないし今のアメリカには小さな民主国家を死守する余裕はない

2010年2月2日(火)17時58分
デービッド・ロスコフ(カーネギー国際平和財団客員研究員)

「強烈な憤慨」 オバマ政権の台湾への武器売却に中国は激しく反発している(写真は昨年11月7日、台湾軍の軍事演習) Reuters

 バラク・オバマ大統領はこの一週間、さまざまな相手を怒らせてきた。まず、共和党議員を中身のないただの目立ちたがり屋だと糾弾。EU(欧州連合)に対しては、5月に予定されているEUサミットに出席しない意向を表明した。 
 さらに、企業に温室効果ガス排出枠を課すキャップ・アンド・トレード方式の新年度予算への計上を見送る方針を決定。環境保護団体に対して、もはやこの方式に期待していないというメッセージを送ったも同然だ。

 だが、なかでも最も大きな意味をもつのは、台湾に64億ドル相当の武器を売却するという決断だ。

 予想通り、中国は激しく反発した。中国外務省は「多大な内政干渉の一環」であるとし、「強烈な憤慨」という表現で怒りを露わにした。

 オバマ政権1年目の中国への対応はブレまくっていた。そのため率直に言えば、今回、政府が中国に対して毅然たる姿勢を示したことは歓迎すべきだ。

 オバマの訪中をはじめ、この1年間のアメリカは中国政府からの批判を恐れて、あまりに受身だったように見える。強大化してきているとはいえ、中国の経済政策は汚職や脆弱な銀行システム、不動産バブル、国家の為替操作によって歪められている。

 中国企業や国民は当局の検閲と権威主義的な戦略を重んじる伝統によって押さえつけられている。外交政策についても、自国の利益につながるときは積極的に関与するが、イランの核問題や温暖化対策のように中国の関与が不可欠な国際問題において真のリーダーシップを発揮することはない。

国内の政治事情で中国を叩くのは危険

 中国は多くの面でアメリカの重要なパートナーだが、深刻な問題もかかえており、中国人も自国に自信をもてないでいる。彼らは中国が変化の過程にあることも、変わる必要があることも知っているが、どれほどのスピードで変化できるのか、それによってどこへ向かうのかわからないという不安をかかえている。

 中国を動かすには、鼻先の人参だけでも、親切さだけでもダメだ。実際、国益しか考えていない強硬な中国指導層にすり寄ろうとしても効果はない。

 アメリカが台湾に武器を売却することや、中国のインターネット政策を批判したことについて中国側は不満を口にするが、そのせいで米中関係が崩壊することはない。米国債の保有に関してアメリカは中国に依存しているが、中国は経済成長や安定に関してそれ以上にアメリカに依存している。

 こうした状況を考えると、オバマ政権が最近、中国に毅然たる態度を取っていることは支持できる。ただし、アメリカが罠に落ちる可能性への懸念はある。

 中国を叩く行為は民主党の支持基盤に受けがいい。共和党の支持基盤にとってアラブ叩きが、国境沿いの州のポピュリストにとってメキシコ叩きが受けがいいのに匹敵する。

 問題は、外国叩きがプラスに働くという国内の政治事情によって外交政策が左右されるのは危険だということ。貿易をはじめとするさまざまな重要分野において、オバマは支持基盤の歓心を買うために中国に厳しく対処したい衝動に駆られることだろう。そうした誘惑は、オバマが一般教書演説で掲げた「5年で輸出倍増」計画と国際通商体制の強化という目標にとって大きな脅威となる可能性が高い。保護貿易主義者への道に歩みだす危険で魅惑的な第一歩だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米FAA、国内線の減便措置終了へ 人員巡る懸念緩和

ワールド

タイGDP、第3四半期は前年比+1.2% 4年ぶり

ワールド

チリ大統領選、来月14日に決選投票 極右候補が優勢

ビジネス

アクティビストのスターボード、米ファイザーの全保有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 6
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中