韓国語翻訳者にはどうやってなるの? 大ベストセラー韓国エッセイの翻訳者に聞く、翻訳という仕事の魅力
──今、日本では音楽、文学、ドラマや映画などKカルチャーが大人気ですが、当時との違いについてはどうでしょうか?
いちばん大きな違いは、コンテンツの供給量です。私が韓国語を始めたのは「冬のソナタ」より前で、BoA、東方神起、SHINHWAなどが日本で活動していました。しかし、「韓流」という言葉はまだ定着していませんでした。
当時はYouTubeもNetflixもない時代です。たまに韓国旅行に行ってDVDを買ったものの、リージョンコードの違いで再生できなかったということもよくありました。
今は自宅にいながら韓国文化にリアルタイムで触れたり、ファン同士や韓国語学習者同士がSNSで簡単につながれるようになったのも大きな違いです。
当時、今の環境があれば、私の韓国語ももっとはやく上達したのかな、なんて思います。
──翻訳の話に戻りますが、1つの作品をどのくらいのスピードで訳されているのでしょうか?
1文字も訳さない日もあれば、10ページ近く訳す日もあります。数年前までは1日単位でノルマを決めていましたが、予定通りに進まないことがほとんどです。ですから、「月末までにどこまで」とざっくりした目安だけを決めて訳すスタイルになりました。
──翻訳中は頭の中は日本語でしょうか? それとも韓国語でしょうか?
日本語のつもりでいますが、実際には韓国語と混じっています。韓国語には漢字由来の単語が多く、たとえば「写真」は韓国語読みでは「サジン」となります。
翻訳中に無意識のうちに「サジン」と入力していて、「あれ? どうして漢字変換がでないの?」と慌てていたら「あっ、韓国語だった......」といったことはよくあります。
──韓国語にあっても日本語にはない。またはその逆もあると思います。そういうときのご苦労などを教えてください
諺やダジャレの翻訳にはいつも苦労します。または、単語自体は初級レベルにもかかわらず、直訳すると不自然になるときも苦労します。
たとえば、日本語で「愛する顧客のみなさま、たくさんのご関心をお願いします」と言われても違和感がありますよね。
言語そのものがもつ思考回路の違いが原因で直訳が難しいことが理由です。日本語らしい表現に置き換えますが、編集者に助けられることも多いですね。
また、韓国語は一人称や語尾における、いわゆる「男言葉」「女言葉」がありません。ですから、セリフから性別を判断することが難しいこともあります。特に最近ではあえて性別を特定できないような中性的な名前をつける作家も多いので、それも苦労する点です。