北極圏で超ハードな「隔離生活」を送る女性2人(と1匹)のクレイジーなジャーニー
ARCTIC WONDER WOMEN
そこで2人はハーツ・イン・ジ・アイスを立ち上げ、19~20年の冬に女性だけの北極圏での越冬に挑み、地球温暖化の影響は極地でこそ顕著だという事実を生活者の視点で伝えることに成功した。
彼女たちは専門家の議論と市民の生活をつなぐ存在だ。ストロームとソルビーはブログや世界中の学校に配信するリモート授業を通じて、気候変動の厳しい現実を少し「やわらかく」伝える取り組みを行っている。気のめいるような見通しに、少しばかりのぬくもりを加えるというニーズを満たしている。
気候変動はウイルスと違って目に見える
2人はバンセブと呼ばれる猟師小屋で暮らし、北極圏でのさまざまな研究に市民科学者として協力。絶滅の危機に瀕するホッキョクグマの生態調査を行ってもいる。その一方、新型コロナウイルスを避けて2度目の越冬に入った2人は「過酷な環境下で長期間にわたって孤立状態に置かれると人はどうなるか」という研究の対象にもなっている。
「気候変動も新型コロナの感染も手に手を取って同時に進んでいる。どちらも重い危機だけれど、こちらは(ウイルスと違って)目に見える」とソルビーは言う。
2人は日々のちょっとした習慣や考え方を変え、想像力を働かせるよう人々に促している。ソルビーの言葉を借りれば、いま私たちに必要なのは、気候変動にまつわる絶望感を、少しでも前向きで希望のある感覚に変えることだからだ。
ずっとスバールバル諸島で暮らしてきたストロームは思う。北極圏を探検してきた人たちの歴史は自分にとっても重要だが、その全ては男性によって記録されたものだから、そろそろ女性が記録者の役を担ってもいいのではないか。なぜなら「私たち女性も男と同じくらい強くて、知識も理解力もあるのだから」。
吹雪で視界不良の中でも薪にする木を探し回り、重い丸太を運び、氷点下の屋外でスノーモービルの部品を交換したり......2人のブログには、ミッションの過酷さが記録されている。シャワーも水道も電子レンジもない暮らし。代わりに目に入るのは、20世紀初頭にシロイルカ漁が盛んだった頃の名残。海辺には今も、雪や氷に埋もれて何千ものイルカの骨が散らばっている。
「ここは男の世界だった」と2人は言う。「罠を仕掛け、猟をし、探検してきたのは男だった。男が、男の物語を語り継いできた。でも、そんな物語にも女性は登場し、多くの場合、ここでの暮らしがうまくいくための重要な役割を果たしていた。彼女たちは男と同等の技能を持った真のパイオニアで、タフだけれどソフトな女性らしさを、この厳しい自然環境にもたらしていた」