1Dはグループとしてシングル1位になれなかったのに...アイドルとラジオ局の不思議な関係とは?
Why Harry Scored His First No.1 Song
秋に夏を歌う個性派
チャートでトップに立つには、ビーバーと同じく大人に聴いてもらえるアーティストとしてラジオで人気を確立しなければならない。
1Dで最初にこれに成功したのが、さっさと脱退したマリクだった。エロチックなソロデビュー曲「ピロートーク」は発売と同時に1位に輝き、ラジオでも4位まで上昇した。ダンス系R&Bは当時大人気で、R&B界の色男ザ・ウィークエンドの新作が出ていない時期を突いたのも賢かった。
一方、スタイルズはいばらの道を歩んだ。17年のソロデビューアルバムは硬派なクラシックロックで、今どきのサウンドとは言えなかった。デヴィッド・ボウイ風のシングル「サイン・オブ・ザ・タイムズ」は4位まで行ったが、ラジオのオンエア回数は最高で21位だった。
続く2曲はホット100に届かなかった。ジャスティン・ビーバーより憧れのジョニ・ミッチェルに忠実なスタンスは尊敬に値するが、ポップスターとしては1D活動休止後の勢いを自分でつぶしてしまった感が否めない。
だから2枚目の『ファイン・ライン』を、ロックテイストを残しつつラジオ受けのいいサーフミュージックに仕上げたのは英断だった。その後はシングルを出すたびに、ヒットへの扉が少しずつ開いた。昨年10月にはバックコーラスが幻想的な「ライツ・アップ」が17位に浮上、4月にはエレクトロポップの「アドア・ユー」がスマッシュヒットして6位になった。
こうして足掛かりを築いたスタイルズが、満を持してエキセントリックな個性を解き放ったのが「ウィーターメロン・シュガー」だ。
サビは「ウォーターメロン・シュガー・ハイ」と繰り返すだけ。昨年11月にバラエティー番組『サタデー・ナイト・ライブ』でも歌ったが、季節は晩秋でステージはスタジオ内。「夏の夕方のイチゴみたいな味だね」の歌詞で始まるこの曲は、何とも季節外れで風変わりに響いた。
時は移り、新型コロナウイルスに呪われたこの夏、ついに「ウォーターメロン・シュガー」はチャートを制した。感染拡大が始まる前に撮影されたビデオではビーチで美女が戯れ、「今こそ触れ合おう」のテロップが流れる。
これでスタイルズも、どうやら知名度に見合った存在感をラジオとチャートでも見せつけることができた。
ビートルズ解散後、ソロでヒット曲を出すのが一番遅かったのはジョン・レノンだ。その彼と同様、スタイルズも熟成までの時間を必要とした。レノンがソロで初めて1位を取った曲「真夜中を突っ走れ」で歌ったとおり、遠回りでも「光が見つかれば、それでいい」のだ。
© 2020, The Slate Group
9月22日号(9月15日発売)は「誤解だらけの米中新冷戦」特集。「金持ち」中国との対立はソ連との冷戦とは違う。米中関係史で読み解く新冷戦の本質。
[2020年9月 8日号掲載]