最新記事

アポロ計画

月面着陸はでっち上げ?!

人類が初めて月面に降り立ってから40年。根強い「捏造説」とアマチュア宇宙ファンの戦いは続く

2009年9月14日(月)15時03分
カート・ソラー

はためく星条旗 月面に立つアポロ11号の乗組員エドウィン・アルドリン(69年7月20日) NASA-Reuters

 きっかけは10年前の不快な出来事だった。ジェイ・ウィンドリーは、合唱団の仲間とユタ州ソルトレークシティーからワイオミング州の演奏会場にバスで向かっていた。そのとき隣の席の男が、アポロ計画による月面着陸はでっち上げだと言いだしたのだ。

「男はばかげた捏造説を散々まくし立てた」とウィンドリーは振り返る。「でも当時の私には、反論するだけの知識がなかった」

 ウィンドリーは自宅に戻るとすぐ、月のクレーターの名前から取ったウェブサイト「クラビウス」を開設。以来10年間、捏造説の誤りを暴くことに力を注いできた。

 人類が初めて月に降り立ったのは40年前の69年7月20日。ウィンドリーのような宇宙好きにとって、アポロ11号のニール・アームストロング船長が月面に残した「偉大な1歩」を否定する行為は許し難い暴挙だ。

 ウィンドリーはサイトで捏造説の「根拠」を一つ一つ取り上げ、否定していく。例えば月面の星条旗。空気がないのにはためくはずがないという主張には、ポールを立てた衝撃で慣性の法則が働き、旗はしばらく動くと説明する。

 月面の写真に星が写っていないのはおかしいという説には、カメラの露光時間が短かったからだと反論する。陰謀への協力を拒否した宇宙飛行士は殺されたという主張には、NASA(米航空宇宙局)はアポロ計画で多くの企業や外部の人間を使っているので、本当に陰謀があれば漏れないはずはないと指摘する。

6%が「行っていない」

  「捏造説は、テレビで見たり学校で教わったこと以外はよく知らない一般人をだまそうとしている。根も葉もない嘘が注目されるのは残念だ」と、ウィンドリーは言う。

 今ではネット上で多くの証拠を確認できるが、それでも「信じない派」はある程度いる。ギャラップなどの世論調査によると、アメリカ人の6%が月面着陸はなかったという立場で、5%が「よく分からない」と答えている。

 この数字は01年に米FOXテレビが『アポロ11号 月面着陸の疑惑』を放送して以来、ほとんど変わっていない。この番組は捏造説や陰謀説を勢いづかせたが、一方でそれに怒った人々も、ネット上で熱心に情報を提供し始めた。

 NASAも同年、「とんでもない月面着陸捏造説」というタイトルの一般向け解説文を発表。「アポロ計画の宇宙飛行士が本当に月を訪れたことは、月の石と常識が証明している」と訴えた。

否定論者に一発お見舞い

 ただし最近は、米政府関係者がこの問題に触れることはなくなった。「09年現在、NASAは陰謀説や捏造説をめぐる議論に関わらないことにしている」と、広報担当のジョン・イェムブリックは本誌にメールで回答した。

 そのせいもあって、今では一般人が宇宙飛行士や科学者の代わりとなり、専門家は相手にする気にもなれないばかげた主張に反論している。「NASAがやるべきことじゃない。彼らにはもっと大切な仕事がある」と、人気ブログ「バッド・アストロノミー」の開設者フィリップ・プレートは言う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は小幅続落、年末のポジション調整

ビジネス

中国航空会社2社、エアバス機購入計画発表 約82億

ワールド

コロンビア、26年最低賃金を約23%引き上げ イン

ワールド

アルゼンチン大統領、来年4月か5月に英国訪問
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 7
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中