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老化を「治す」時代へ だが老化を病気と分類すれば失われるものが大き過ぎる

IS AGING A DISEASE?

2021年5月20日(木)19時25分
ジョエル・レンストロム(米ボストン大学上級講師)

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老化プロセスの解明が慢性疾患の治療に役立つ可能性も KATARZYNABIALASIEWICZ/ISTOCK

さまざまな治療法や製品が老化に対処しているという主張は、これまで吟味されてこなかった。現段階では米食品医薬品局(FDA)が、その種の治療法の効果を審査・検証していないためだ。

バージニア・コモンウェルス大学のボリングは、たとえ誰かが老化を引き起こす細胞のプロセスを緩和する薬物を作ったとしても、「市場に出す方法は見つけられなかった」と指摘する。だからこそ、老化を病気と定義するべきだと、多くの老年学の専門家が主張しているのだ。

プロセスと原因を区別する

老化の研究は今後、当局のより厳しい指導を受ける一方、潤沢な資金を得られる可能性もある。米議会はアルツハイマーなど年齢に関連する病気に研究資金を割り当てているが、病気ではない症状の研究への資金提供は難しいのが現状だ。

だがFDAの元医務官G・アレクサンダー・フレミングは、FDAは「長い間、慢性疾患を予防する製品を承認してきた」と指摘する。老化が慢性疾患の最大の危険因子ならば、老化プロセスに的を絞った治療によって「多くの慢性疾患に同時に対処できる」可能性があると言う。

加齢関連疾患の根底にあるプロセスはいくつか重なって起こることが多いため、例えば心臓病やアルツハイマー病にかかりやすくなるプロセスが分かれば、いくつもの病気を一度に治療できるかもしれない。

老化というプロセスとその根本原因を区別することは、研究資金の分配にも影響する。

米ウェークフォレスト大学のジェイミー・ジャスティス助教(老年医学)は、アメリカ老年学会の討論で「老化は病気か」という問いが正しいとは思わないと語った。より適切なのは「老化を病気扱いしなければ、臨床医や規制当局者、利害関係者に対処してもらえないのか」という問いだと、彼女は言う。

ヘイフリックによれば、その答えの一端は、研究資金の投入先を決める政策立案者の側に老化に関する知識が不足していることにある。

「政策立案者は、加齢関連疾患の治療法の開発が、老化をもたらす生物学的な根拠を解明する役に立たないことを理解すべきだ。彼らは生物学的な解明につながると信じ、その誤解に基づいて決定を下す」

この誤解のせいで、癌やアルツハイマー病といった加齢関連疾患の研究には、生物学的老化プロセスの研究をはるかに上回る資金が投入されている。

老化現象が、人間の死をもたらす可能性の高いほぼ全ての病気の危険因子だとしたら、「何が加齢関連疾患にかかりやすくなる要因を増加させるのかという問題の解明に、もっと多くの資源を充てるべきではないのか」と、ヘイフリックは問う。

根本的なプロセスが解明できれば、老化の原因に対処する治療に取り組むことが可能になる。

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