最新記事

サイエンス

老化を「治す」時代へ だが老化を病気と分類すれば失われるものが大き過ぎる

IS AGING A DISEASE?

2021年5月20日(木)19時25分
ジョエル・レンストロム(米ボストン大学上級講師)

magSR20210520agingdesease-2.jpg

年を重ねても健やかな生活を送れる期間を重視すべき CASARSAGURU/ISTOCK

病気なら予防も治療もできる

人体の老化と特定の病気の関連性は、以前から問われ続けてきた。2013年には国際的な研究チームが、老化の特徴を9項目にまとめている。

その9項目とは、ゲノムの不安定性、テロメアの短縮、遺伝子発現の変化、タンパク質恒常性の喪失、栄養感知の制御不全、ミトコンドリアの機能不全、細胞の老化、幹細胞の枯渇、そして細胞間のコミュニケーションの不調だ。

9つの特徴は誰にでも起こり得る。その多くが重なって発生するため、どれか1つを取り分けたり、因果関係をつかんだりすることは難しい。

私たちは老化という「結果」を知っているが、この9つの特徴を引き起こすプロセスについては、まだ科学的に解明されていない。

ヘイフリックによれば、「老化」と「加齢関連疾病」を区別することが重要だ。その区別を怠れば、「老化のプロセスを理解する上で最大の妨げになる」。

高齢という状態は異常ではないのに、なぜ老化を病気扱いするのか。老化が疾病なら、地球上の人類全員が患う病気ということになり、65歳以上はみんな進行した症例になる。

デンマークのオーフス大学細胞老化研究室のスレシュ・ラタンに言わせれば、あらゆる人が経験する状態は病気に分類できない。

もちろん、老化は数え切れない病気に関係している。心臓病やアルツハイマー病、さまざまなタイプの癌、糖尿病......。しかし高齢者みんなが、これらの病気にかかるわけではないのだ。

米バージニア・コモンウェルス大学のピーター・ボリング教授は、2019年のアメリカ老年学会で「それらの状態(病気)は生物学的現象としては老化に直接結び付かない」と述べた。言い換えれば、老化との関連性はあるのだが、必ずしも老化そのものが引き金になるわけではない。

原因となるのは、老化の生物学的プロセス。前述した9項目の特徴を引き起こすものだ。

老化を病気に分類すれば、その予防や治療が可能だと示唆することにもなる。科学者が老化の根本的なプロセスを引き起こす原因を解明できれば、予防や治療の方法も見つかるかもしれない。

だが、人間の老化を防ぐことはできない。それができるという概念は誤解を招き、医学的根拠のない治療につながる。

ヘイフリックら50人以上の科学者が2002年に発表した意見書は、企業による抗老化薬やサプリメント、ホルモン、その他の老化防止療法の宣伝は「虚偽や誤解を意図的に招いたり、商業的な理由で誇張されたりしている」と警告した。

こうした商法は消費者に無益な支出をさせるだけでなく、企業のプロパガンダと科学的な研究結果の区別を難しくさせる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中