老化を「治す」時代へ だが老化を病気と分類すれば失われるものが大き過ぎる
IS AGING A DISEASE?
病気なら予防も治療もできる
人体の老化と特定の病気の関連性は、以前から問われ続けてきた。2013年には国際的な研究チームが、老化の特徴を9項目にまとめている。
その9項目とは、ゲノムの不安定性、テロメアの短縮、遺伝子発現の変化、タンパク質恒常性の喪失、栄養感知の制御不全、ミトコンドリアの機能不全、細胞の老化、幹細胞の枯渇、そして細胞間のコミュニケーションの不調だ。
9つの特徴は誰にでも起こり得る。その多くが重なって発生するため、どれか1つを取り分けたり、因果関係をつかんだりすることは難しい。
私たちは老化という「結果」を知っているが、この9つの特徴を引き起こすプロセスについては、まだ科学的に解明されていない。
ヘイフリックによれば、「老化」と「加齢関連疾病」を区別することが重要だ。その区別を怠れば、「老化のプロセスを理解する上で最大の妨げになる」。
高齢という状態は異常ではないのに、なぜ老化を病気扱いするのか。老化が疾病なら、地球上の人類全員が患う病気ということになり、65歳以上はみんな進行した症例になる。
デンマークのオーフス大学細胞老化研究室のスレシュ・ラタンに言わせれば、あらゆる人が経験する状態は病気に分類できない。
もちろん、老化は数え切れない病気に関係している。心臓病やアルツハイマー病、さまざまなタイプの癌、糖尿病......。しかし高齢者みんなが、これらの病気にかかるわけではないのだ。
米バージニア・コモンウェルス大学のピーター・ボリング教授は、2019年のアメリカ老年学会で「それらの状態(病気)は生物学的現象としては老化に直接結び付かない」と述べた。言い換えれば、老化との関連性はあるのだが、必ずしも老化そのものが引き金になるわけではない。
原因となるのは、老化の生物学的プロセス。前述した9項目の特徴を引き起こすものだ。
老化を病気に分類すれば、その予防や治療が可能だと示唆することにもなる。科学者が老化の根本的なプロセスを引き起こす原因を解明できれば、予防や治療の方法も見つかるかもしれない。
だが、人間の老化を防ぐことはできない。それができるという概念は誤解を招き、医学的根拠のない治療につながる。
ヘイフリックら50人以上の科学者が2002年に発表した意見書は、企業による抗老化薬やサプリメント、ホルモン、その他の老化防止療法の宣伝は「虚偽や誤解を意図的に招いたり、商業的な理由で誇張されたりしている」と警告した。
こうした商法は消費者に無益な支出をさせるだけでなく、企業のプロパガンダと科学的な研究結果の区別を難しくさせる。