最新記事

科学後退国ニッポン

科学者と名乗ると「外国ではカッコいいと言われる」(一流科学者・覆面座談会)

DOCTORS IN ROUNDTABLE SESSION

2020年10月16日(金)17時45分
ニューズウィーク日本版編集部

ニュートン イギリスもアメリカも教育はコストがかかるものという認識が浸透している。だが日本は教養学部廃止で研究が得意な人が教育もやらざるを得ない。しかも教育への評価はされにくく、教えることがおろそかになる。

ダーウィン そのことですが、日本の大学では誰かが決めたカリキュラムに沿って授業をあてがわれたりしませんか。新しい授業を開設するのが難しいのか最先端の授業も行ないづらく、進歩が早い分野ではどんどん時代遅れになるし、自分の専門でなかったりするとパッションも持ちづらい。

ニュートン そうした詳細が採用時には分かりにくい日本の人事制度はおかしい。何を期待され採用に至るのか明確でないのでミスマッチが起こり得る。学問的需要とは別に政治が絡むこともあるし。

ただ、採用前の教員の評価が難しいのも事実。欧米は「人物評価」で教員を採る。でも日本の場合クローズドじゃないですか。選考員5人ぐらいの前でプレゼンするぐらいで。基準が明確でない。日本は人事に関してはもっと人物を見るべきだと思う。

ダーウィン アメリカのトップ大学では朝から丸1日かけて教員一人一人と面接して評価される。学生も候補者と議論して採用担当教員に意見を言える。ランチやディナーも候補者は教員たちと一緒に取る。研究はもちろん、人としてどれだけ魅力的か見る。

エジソン 日本はそこまで労力かけないですよね。採用側もそういう能力はない。あらかじめ採用者が決まっている「デキ公募」もよくあるし。そういう公募で僕は今まで2回「当て馬」をやったことがある(笑)。

インパクト・ファクターと大学教員の評価

エジソン でも教育者としてのどう評価するかは難しい。学生によって印象も違うだろうし。投資してでも守っていかなくてはいけないのが教育だが、評価がちゃんとできなくて適当になってしまっているのが今の日本。

私は教育と研究を分けて評価しないと駄目だと思う。研究基準で教育を語っても正当な評価はできない。教育関係の予算、組織を削って壊してしまったことは非常に損失が大きかったと思う。

ダーウィン 僕は研究も実は評価は難しいと思う。論文の数ではないし、実は価値でもない。なぜなら「今」その研究の本当の価値は分からない。今は誰もすごいと思っていなくても、5年後10年後に良い研究だったと分かることもあるわけで。

ニュートン 何が良い研究か、誰がどのように判断するのか。それを数値化しちゃったのが(科学雑誌の影響力を測る)インパクト・ファクター(IF)。

「ネイチャー」、「サイエンス」、「セル」クラスだとIFが大きくなるので、一般の人には分かりやすい。でもそういう雑誌に載った研究がどれほど重要なのかは時が経たないと分からない。載ったということは査読して審査した人が重要だと認めたという、その時点での判断でしかない。

エジソン 先ほど赤﨑先生の話が出たが、窒化ガリウム関係の初期の論文はアメリカでも日本でもIFが低い雑誌にしか載っていない。でも赤﨑さんはノーベル賞を取っている。もちろん良い雑誌に載せればみんなが読むかもしれないが、それが全てではない。

ガリレオ IFとはその雑誌に掲載された論文が引用された回数を掲載した論文数で割ったもの。それは確かに雑誌に対する1つの指標だけど、論文そのものの評価じゃない。

本当に論文を評価する目を持っていれば、IFはどうでも良い。ただわれわれは他分野に関してはそういう目がないので、IFに頼ってしまう。自分の評価能力のなさを外部の指標で補っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ハンガリー首相と会談 対ロ原油制裁「適

ワールド

DNA二重らせんの発見者、ジェームズ・ワトソン氏死

ワールド

米英、シリア暫定大統領への制裁解除 10日にトラン

ワールド

米、EUの凍結ロシア資産活用計画を全面支持=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中