科学者と名乗ると「外国ではカッコいいと言われる」(一流科学者・覆面座談会)
DOCTORS IN ROUNDTABLE SESSION
ILLUSTRATION BY A-DIGIT/ISTOCK
<どうすれば日本の科学界は復活できるのか。覆面座談会の後半では、教育コストを渋ることの致命的損失や足りない予算を調達する方法、「科学者」イメージを更新する必要性などについて語ってもらった。本誌「科学後退国ニッポン」特集より>
日本は「科学後進国」なのか。日本の研究・教育環境と海外との違い、そこから見える問題点と解決策とは。
アメリカやイギリスの一流大学や研究所で勤務経験があり、現在は東京大学や東京工業大学で助教、准教授として働く30代後半の研究者、仮名「ダーウィン」「ニュートン」「エジソン」と、国内の大学で学長経験もある大御所研究者「ガリレオ」の計4人に、覆面座談会で忌憚なく語ってもらった。
(収録は9月25日、構成は本誌編集部。本記事は「科学後退国ニッポン」特集掲載の座談会記事の拡大版・後編です)
※座談会前編はこちら:日本の科学者は「給料安い」「ポンコツ多い」(一流科学者・覆面座談会)
「専門」への敬意を欠く日本
ガリレオ 海外は実験を準備するスタッフなども充実しているよね。日本では何でも教授自らがやらないと回らない。ヨーロッパでは、下支えしてくれるスタッフがすごく充実している。そこに計り知れない違いがある。
ダーウィン 結局日本はスタッフもプロじゃない。アメリカの大学では事務も専門職。MBA保持者もいるし、自分の仕事に誇りを持っている。
ガリレオ 日本は専任の大学職員であっても部署がどんどん変わるでしょう。アメリカはずっと同じ部署にいて、本当のプロが育っている。
エジソン 一方、日本の大学職員の仕事は研究、教育の他に雑用もある。例えば学生の担任や研究室運営、入学試験の問題作り、試験官の振り分けなど。あとは学内委員会ですね。安全衛生委員会とか。こんなのまで俺たちがやるかっていう(笑)。
ニュートン 大学院重点化前には、ラボ1つに教授1人/助教授2人/助手3人が標準的で、助手3人がスタッフ的役割をしていたというのが私の理解。最前線でラボを支えていたのは助手だった。それが重点化によって、1人/1人/1人や1人/0人/1人、1人/0人/0人も当たり前になった。教員1人だけで全部やらないといけないラボもあり本当に忙しい。
なぜそうなったかというと、重点化に対して予算増がなかったから。人件費を増やさず、元々いた教員を新しいラボに回した。そうしてラボ内教育が手薄になり、研究のレベルも下がり、企業からの信用度も下がった。
ガリレオ それは別の言い方をすると小講座制をやめて大講座制にしたということ。小講座制の悪いところは封建的になりがちなところ。例えば3人の助手が居たとして、1つの助教授ポストを得ようと理不尽なきつさに耐えなければいけない。
もうそういう時代じゃないだろうというので、権利を民主的に分かち合うために変えていったんだけど、研究という面ではまずいよね。
それにしても文部科学省の大学教育改革はみんな裏目に出ている気がする。教養部の廃止とか、大学院重点化とか、ポスドク1万人とか、大講座制化とか。学部に対する教養部のプライド、大学院に対する学部のプライド、研究室における助手のプライドをもっとその場その場でしっかり高めることを考えるべきだったと思う。