最新記事

サイバー攻撃

米国で拘束された中国人ハッカー「ゴールドサン」 帰国後にセキュリティー講座を担当

2019年12月25日(水)14時29分

米国で様々なハッキングに関与した罪で有罪判決を受けた中国籍の講師が今年釈放され、中国国営の高等職業学校でインターネットセキュリティーなどの講座を担当していることが明らかになった。写真はシンガポールで2013年10月撮影(2019年 ロイター/Tim Wimborne)

米国で様々なハッキングに関与した罪で有罪判決を受けた中国籍の講師が今年釈放され、中国国営の高等職業学校でインターネットセキュリティーなどの講座を担当していることが明らかになった。

この男性はユ平安氏(39)。「ゴールドサン」の別名を持つ。2017年8月に米国の大学を視察するためロサンゼルス国際空港に到着したところを逮捕され、18カ月間、サンディアゴ連邦拘置所に収容された。同氏はハッキングに関与した罪を認め、今年2月に釈放。中国に帰国後、元の職場に復帰した。

判決文によると、ユ氏が関与したハッキングで被害を受けた企業には、半導体大手のクアルコム、航空・防衛企業のパシフィック・サイエンティフィック・エナジェティック・マテリアルズ、ゲーム会社のライアットゲームズが含まれる。

法廷文書によると、ユ氏の専門は、コンピューター・ネットワーク・セキュリティー、プログラミング。

同氏はマルウェア(悪意あるソフト)のブローカーとして知られ、コンピューターを遠隔操作できるマルウェア「Sakula」をハッカーに提供していた。

Sakulaの作成者や同氏がどのようにSakulaを入手したかは不明だが、このSakulaは、数千万人の個人情報が漏えいした米健康保険大手アンセムに対するハッキングや、同じく数千万人の個人情報が流出した米連邦人事管理局(OPM)に対するハッキングなど、過去10年で最悪の被害が出たサイバー攻撃で利用されている。

米国では、中国の人民解放軍や国家安全省が欧米企業の技術を盗むため、共同でサイバー攻撃を行っているとの見方が浮上しており、近年、中国籍のハッカーが米国で刑事訴追されるケースが増えている。

ただ、実際に逮捕されるケースは少なく、ユ氏は米国で逮捕され有罪が確定した数少ない中国人ハッカーの1人とみられる。

ユ氏は、ハッキングの被害を受けた5社に対する約110万ドルの賠償金の支払いも命じられた。判決文によると、賠償金は月100ドルの分割払い(金利なし)で支払うことになっており、完済までに900年以上かかる計算だ。

ユ氏の弁護人を務めたジェレミー・ウォーレン氏は「ユ氏は中国籍の高等学校講師であり、現実的には完済の見込みはない」としながらも、18カ月の拘留は「決して楽な時間ではなかった」と述べた。

中国外務省はユ氏の件について「関知していない」とコメント。「我々はいかなるサイバー攻撃にも断固として反対する」とした上で、米国のハイテク分野の訴追には「冷戦のメンタリティー」がみられると批判した。

ロイターは先月、ユ氏が国営の高等職業学校である上海市商業学校で講師を務めていることを突き止めた。米当局者によると、ユ氏は以前もこの学校で働いていた。

教室の外の電子掲示板によると、ユ氏は「インターネットセキュリティーのための基礎英語」といった講座を担当。元生徒の1人は「政治的な理由」でコメントできないと語った。

ユ氏はロイターの取材に対する回答を控えており、学校関係者もユ氏のプライベートに関わる問題だとコメントしている。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



2019123120200107issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2019年12月31日/2020年1月7日号(12月24日発売)は「ISSUES 2020」特集。米大統領選トランプ再選の可能性、「見えない」日本外交の処方箋、中国・インド経済の急成長の終焉など、12の論点から無秩序化する世界を読み解く年末の大合併号です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

フィッチ、イタリアの格付け見通し引き上げ 財政改善

ビジネス

米財政赤字、24年度は1.8兆ドル超で過去3番目の

ワールド

G7が初の国防相会合、ウクライナ支援やガザ停戦要求

ワールド

イスラエル軍によるガザ北部空爆で73人死亡=ハマス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選 決戦前夜の大逆転
特集:米大統領選 決戦前夜の大逆転
2024年10月22日号(10/16発売)

米大統領選を揺るがす「オクトーバー・サプライズ」。最後に勝つのはハリスか? トランプか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料を1ウォンも払わず 「連絡先分からず」と苦しい言い訳
  • 2
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア兵の正面に「竜の歯」 夜間に何者かが設置か(クルスク州)
  • 3
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が始まって以来「最大規模」の超巨大爆発だった
  • 4
    「常軌を逸している」 トランプ、選挙集会で見せた「…
  • 5
    トランプが、娘から露骨に顔を背けて「完全無視」...…
  • 6
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 7
    グロズヌイ「巨大爆発」の瞬間映像...「戦時」の不安…
  • 8
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 9
    ビタミンD、マルチビタミン、マグネシウム...サプリ…
  • 10
    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…
  • 1
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 2
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア兵の正面に「竜の歯」 夜間に何者かが設置か(クルスク州)
  • 3
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料を1ウォンも払わず 「連絡先分からず」と苦しい言い訳
  • 4
    目撃された真っ白な「謎のキツネ」? 専門家も驚くそ…
  • 5
    「メーガン・マークルのよう」...キャサリン妃の動画…
  • 6
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 7
    『シビル・ウォー』のテーマはアメリカの分断だと思…
  • 8
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 9
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 10
    性的人身売買で逮捕のショーン・コムズ...ジャスティ…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 4
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 5
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 6
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 7
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 8
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 9
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
  • 10
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中